この世に生を受けてから、砂隠れと言う里に住んでいるが流石に今日は茹だるように暑かった。
久々に書類から目を離し、里内を見回りと言う名の散歩に出れば里の人々から声を掛けられる。
二、三言葉を交わし商人達から話を聞けば、今日は里内に行商人の一行がやってくる日らしい。

 久々に立ち寄るか。
そう思えば行動はとても早かった。




「よお、兄ちゃん。プレゼントかい」

 大きなハットを被り、煙管を銜えた男に声を掛けられ、我愛羅は思わず足を止める。
多くの行商人が広場を賑わせ市場と化す。
食べ物や他里の土産物や生活用品。
様々な物が売られている中、目の前の行商人の男が広げる物に我愛羅は思わず目を見張った。


「装飾物か……」
「堅っくるしい言い方だなあ、アクセサリーと言えよ」
 がははと豪快に笑う男はハットの鍔を上げ我愛羅を見る。

「どうだ、一つ。大切な人にプレゼントでも」
「大切な……」

 男の言葉に我愛羅はぽつりと呟く。
目の前に広がるアクセサリーは太陽の光を浴び、どれもキラキラ輝いている。
正直どれもこれもゴテゴテと大きいばかりの宝石に我愛羅は惹かれるものは無く、さてどうしようかと視線を彷徨わせていると商品の一番隅に綺麗な小箱に入った物を見つけた。

「これは、」
「おお、兄ちゃん目敏いねぇ」

 男がふーっと口から白い煙を吐けば、空に煙が昇っていく。
我愛羅が膝を曲げ、小箱を手に取れば中に納まっていたのは、桜の花弁の形をしたアクセサリー。

「それはな、イヤーカフって言うんだ」
「イヤーカフ?」

 聞きなれぬ言葉に首を傾げれば、男は煙管を銜え我愛羅の手から小箱を受けった。

「おお、これは耳に挟むアクセサリーさ。ピアスみたいに穴を空けなくていい代物だ」
 手元の白い布で小箱から取り出した、アクセサリーことイヤーカフを持ち上げる男。
太陽の光がキラキラと輝き、桜の花弁を模した宝石が存在を主張する。

「貰おうか」
「へへ、毎度。おまけで値引きしておいてやるよ」
「それはありがたい」

 見た目に反して男が小箱を綺麗に包装する。
それを受け取った我愛羅は男に礼を告げ、男に品物代を手渡した。





「あっつーい……」
 流石に今日は暑いわね。そう呟き、普段髪の毛を下ろしていたサクラは一つに纏めうなじを露にしていた。
ぱたぱたと、団扇で風を送れば生温い風が肌に届く。

「あー、今日は暑くて堪んない……」
 しかも非番である。
気を紛らわせようにもすることが無く、サクラは団扇を片手にテーブルに突っ伏し、ほんの少し冷たいテーブルに頬を引っ付けていた。

 ガチャン、と聞こえた音にサクラは閉じていた瞼をゆるりと開けて顔を起こす。

「あら、我愛羅くん。お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
「今日は随分と早かったのね」
 サクラが笑えば、我愛羅はまあな。と小さく応える。

「ん」
「え?」

 すっと、テーブルに置かれた小さな小箱。
綺麗に包装されているそれにサクラは首を傾げて、隣に立つ我愛羅を見上げた。

「なあに?」
「……ぷれぜんとだ」
 改めて聞かれると少々恥ずかしい。
そう思ったが我愛羅が少し視線を下げ、サクラの顔を覗けば瞳が爛々と輝いていた。

「いいの?」
「ああ」
 正直我愛羅がサクラに何か物を渡すと言うことは極端に少ない。
あっても誕生日ぐらいだ。
その為かサクラはこにこと笑いながら、白い指で丁寧に包装を解いていく。

「アクセサリー、かしら?」
 薄いピンク色をした桜の花弁を模したアクセサリー。
それはスタールビーと言う宝石を桜の花弁に加工した物。サクラはまじまじと見つめながら我愛羅に問う。

「高かったんじゃないの……?」
「そうでもないさ」
 貸してみろと我愛羅がサクラの手から受け取ると、解れて流れ出てきていた髪の毛を耳に掛けた。

「イヤーカフと言うらしい」
「うーん……聞いた事ないわね」
 考えるサクラを他所に、我愛羅はサクラの両耳にイヤーカフを付けていく。

「痛いか?」
「全然! へーこういう風に付けるのね」

 軟骨の辺りを挟むように取り付けられたイヤーカフにサクラは手で触り、コクリと頷き納得する。

「どうかしら、魅力的?」
「ああ、似合ってる」

 イヤーカフがなくともサクラが魅力的であることは変わりない。
と心の中で思ったが口にするのは少々恥かしい為、我愛羅は言葉の変わりにサクラの頬に口付けをする。


「ふふ、ありがとう」
「どういたしまして」


 サクラが笑えば、静かに輝く桜の花弁が輝いていた。



2015.我サク独り祭り
001.薄紅色の花弁