妖怪パロ。



 むすり、と不機嫌そうな表情が目の前に。
学校帰ってきたサクラは誰だ。と思わず身構えた。


「ど、どちら様ですか……お客さん?」
 目の前に立つ、着物を身に纏った男に怪訝な表情を向ければそろりと視線が落とされる。

「迎えに来た」
 額にでかでかと「愛」の文字を刻み、眉の無い色白の男の言葉に、サクラは形の良い唇をへの字に曲げた。

「……は」

 春休み早々、変な人物が来た。
陽気な季節はやはり変わった人が多いのね。と心の中で呟くしかなかった。



 カポーンと響くししおどし。
サラサラと流れる水の音が庭園に聞こえる。

 どういう状況だ。これは。
庭園が見渡せる客間。何故だかサクラは先ほど顔を見合わせた男と共に正座をさせられていた。

「態々すまない」
「いえいえ、お気になさらず」

 隣に座る着物の男はテーブルに置かれた湯飲みを手に取り、何一つ無駄の無い動きで湯飲みを口元まで持っていく。
綺麗な所作だ。
流れるような動作を見ていたサクラの視線に気がついたのか、男は口元だけで微笑んだ。

「む……お父さん、お母さん誰? この人」

 どこか馬鹿にされたような気がしたサクラは嫌な表情を隠そうともせず、 机を挟んだ向かいにいる>両親に問いかける。



「誰って……サクラ、お前の婚約者だよ」

 にこやかに、穏やかに笑う父の顔。その隣でうんうんと頷く母親。
この二人は何を言っているのだ、と思いサクラは頭が痛くなる。

「はぁ? 何言ってんのそんな漫画じゃあるまいし……」
 少し広い額を右手で押さえ、サクラは目を閉じる。
目の前の両親が突拍子も無いことを言うことなんて日常茶飯事だが、いくらなんでもこのドッキリはあまりにも雑すぎる。

 サクラは隣から視線を感じ、じとりと男を見れば澄んだ緑の瞳と視線がぶつかる。

「それからサクラ、アンタには話してるけど」
「なによ」

 母の声に視線を戻せば、あまりにも真剣な表情だった為思わず息を呑む。

「私達と血が繋がっていない事は承知よね」
「当たり前よ」

 幼い頃から包み隠さず事実を教えてくれた目の前の父と母。
血が繋がっていない事に関してうんと小さい頃目の前の二人と困らせた事はあったけれど、
今となってはここまで育ててくれたことに感謝しているし、血が繋がらなくとも親子だと思っている。

「それとは別にもう一つアンタに言わなきゃいけない事があるの」
「……何よ」

 ここに来て、何故隣に見知らぬ男がいる中で言うべきことなのか。
サクラは首を傾げ母をじっと見つめる。


「アナタね、人間じゃないの」
「は」

 間髪いれず吐き出した言葉。
頭の処理が追いつかずサクラは母の言葉を理解することができずにいる。

「正直に言えば、純粋な人間じゃないって事。鬼と人間の間に生まれた子供よ」
「所謂半妖ってやつだな、母さん」

 暢気に話す両親にサクラは頭がぐらりと揺れる。
人間じゃない? 半妖? そんなファンタジックなことがあってたまるか!
いくら神社の娘として育てられたといえど、はいそうですか。と納得できる物ではない。


「お父さん、お母さんいい加減にして! いくらなんでもそんな話信じられるわけ、」
「丈が短いな、はしたない」

 バン! と両手をテーブルに付き腰を浮かして膝立ちになっていたサクラの短いスカートをぺろんと捲った男は眉間に皺を寄せる。
その行動に声にならない叫び声を上げたサクラは、拳にありったけの力を込めた。


「こんの変態があああ!!」
 しゃーんなろー!! とサクラ独特の叫び声と共に男の鳩尾に綺麗に決まった。

「ぐ……さすが、俺の嫁」
 バタリと倒れこんだ男。
肩で息をしたサクラは両親に向かって認めない! と叫んだ。

「認めないわよ! 何が許婚よ、私にはサスケくんがいるんだから……!」
「待ちなさい、サクラ!」
 脱兎の如く部屋から飛び出すサクラに母は叫んだが、サクラには届かなかった。




 ***



「……何でまだいるのよ」
「暫く住まう事になった」
「はあ!?」
 日が沈み、随分と時間が経過した頃に自宅こと、神社に戻って来たサクラは居間に居る男に向かって問いかけた。

「私はアンタのことを認めないわよ!」
「……我愛羅」
「え」
 テレビに夢中になっていた男はサクラの言葉を遮った。

「俺は我愛羅だ、アンタじゃない」
「知らないわよ! アンタの名前なんて……!」

 キーっと地団駄を踏むサクラに我愛羅と名乗った男は、目元を細め優しく微笑んだ。

「よろしくな、サクラ」
「ばっ! ばっかじゃないの!?」
 誰がアンタなんか! と叫ぼうとしたサクラの声に被せるように「ごはんできたわよー」と母の声が聞こえた。

「人の食事は美味いと聞く、頂こうか」
「もうなんなのよー!」


 こうして、奇妙な男とサクラの共同生活が始まった。



2015.我サク独り祭り
002.奇妙な男がやってきた