特に面白くも無いテレビのチャンネルを回しながら、やっぱり何もないなと思い無難なニュース番組にチャンネルを合わせる。
リモコンをテーブルの上に置き、カップラーメンの蓋をぺらりと捲れば湯気が出る。
ずるずると音を立てながら、食べていた所でインターフォンが突然鳴った。

「来ちゃった」

 玄関を開ければマフラーに顔埋め、頬を染めるサクラの姿があった。


 冷えた身体を温めるため、ホット珈琲をサクラ渡す。
ソファに座って両手で受け取り、湯気が出るカップにふぅふぅと息を掛け懸命に珈琲を冷ますサクラの横に腰を掛けた。

「今日は来れないんじゃなかったのか?」
「そうだったんだけど、思ったよりも早く仕事が終わったのよ」
 ふーと大きく息は吹きかけ、珈琲を飲んだサクラは身体が温まったのか、ほぅと小さく声を漏らす。
「居なかったらどうしたんだ」
 隣に座るサクラの腹に腕を回し、少し強引に引き寄せる。
テレビで何かニュースが読み上げられているのが、少しだけ煩く感じた。
「別に居なかったら居ないで帰るわよ。こんな寒い夜に誰が待つもんですか」
「賢明な判断だ」
 少し笑いサクラのこめかみに唇を落とせば、ひやりと冷たい感触。
外は随分と寒かったことを理解すると同時にもう一度風呂を沸かすか。と考える。

「と言うか、カップラーメン食べてたの? こんなに日?」
 ジトリとした視線を向けられ、面倒くさくてな。と答えればサクラはもう! と鼻息を荒くする。
「別にいいけど……最近キチンとご飯食べてる? 顔色悪いわよ」
 覗きこむように眉を顰め、視線を向けてくるサクラの翡翠の瞳が宝石のようだと思う。
「食べてる……顔色が悪いのは元からだ」
 最近手を抜いていたことにギクリとし、減らず口を叩けば軽く頬を抓られた。
「もー、いつも一緒にいられるわけじゃないんだからご飯キチンととらないと。栄養偏るわよ」
 看護師として忙しく働くサクラの言う事に、そうだな。と頷けばサクラが立ち上がり腕まくりをする。

「何か作るけどー」
「冷蔵庫に何も入ってないぞ」
「あ、本当だ」
 冷蔵庫の中を見てどうしようかと悩むサクラをソファ越しに眺めれば、視線に気がついたのか振り返り、にこりと笑顔を返される。
「意外とズボラよねぇ……」
 普段きっちりしてる分、その反動かしら。と呟くサクラに目元を少しだけ細めて、背凭れに肘を付いたままサクラに投げかける。

「なあ、サクラ」
「なあに」
 何も入っていない冷蔵庫から引き上げて、ソファの前に立つサクラを見上げた。

「一緒に住むか」

 きょとんとした瞳。
言葉を理解したのか視線を彷徨わせ、口を金魚のようにぱくぱくさせる姿が可愛らしい。

「わっ、た……私の、残りの人生もらってくれるなら」

 顔を真っ赤にさせたサクラの言葉に思わず瞬きを繰り返す。

「おま、え、……結婚したかったのか」
「ええ……!? なに我愛羅くん遊びだったの!」
 ヒドイ! と声を荒げるサクラに、いや待て。ちょっと待て! とサクラの手を取る。
「ずっとはぐらかして来たのはお前だろう。俺は随分前から言ってきたが」
「知らないわよ……そんなの」
「……鈍感」
 うう、と口元をへの字にするサクラを見上げ改めてサクラの左手を両手で包む。

「結婚するか……」
「う、うん」
 目元をぎゅっと閉じるサクラに小さく息を吐いて、左手の薬指に唇を落とす。
色気も何もない。
普段の部屋に伸びてしまったカップラーメン、ざわざわと聞こえるニュースの声。
 指輪も何もない。
だけど自分達らしいと心の中でひそかに思う。

「あ」

 何かを思い出したようにサクラが声を上げた。
「なんだ」
 やっぱり嫌だ。といわれるのかと思い内心穏やかではない。
柔らかい左手を触りながらサクラを見上げる。

「言ってなかった、お誕生日おめでとう」
 にかりと笑うサクラに、部屋にある時計を見ればいつの間にか日を跨いでいた。
「おお、ありがとう」
 随分と大きな誕生日プレゼントをもらったな。と思う。

 テレビの少し煩い雑音なんて、もう気にならなかった。



2015.我サク独り祭り
008.数年越しの