過去会話文から。
焼け付くような太陽の下。
足元の砂をさくりさくりと踏みつけ足跡を付けていく。
目の前の影が突然走り出したのを見て顔をあげた。
「ねぇ、我愛羅くん! あれってオアシス!?」
「ん」
目の前で太陽の光を浴びながら、キラキラと光る撫子色の髪の毛。
無邪気に笑うその表情がとても幼く見えた。
さらさらと耳に心地良く残る水音。
被っていたフードを取り、小さく命を育むオアシスの水辺に膝を付く。
「ここは来たことがないな」
広大な砂漠故、目の行き届かぬ場所もある。
ちゃぷりと水を掬い鼻を寄せ臭いを嗅ぐ。
「毒は混ざってなさそうだな」
透き通るような水。
微量の水を口に含め、苦味や甘みがないのを確認する。
「サクラ、ここの水は飲めそうだぞ」
「本当! 砂隠れまでまだ距離があるから水をもって行きましょう」
喜んだサクラが手持ちの鞄から水筒を取り出し、水を補給する。
サクラの背後に生えている、緑の植物がガサリと動く。
それに気がついたサクラが首を向ければ、ひょこりと現れた小さい獣。
「わあ! 可愛い!」
声を上げたサクラに近づくその獣の足元に、懐から出したクナイをストンと落とす。
そのクナイに驚いた獣は声をあげ、慌てた様子で逃げていった。
「微量だがあれは毒を持っている。可愛いといって手を伸ばすと痛い目を見るぞ」
「うへぇー知らなかったわ……まだまだ知らない生き物が沢山いるわねぇ」
「そうだな、砂漠は特に広いからな。未発見の生物もまだまだいる」
地面に刺さったクナイを手に取り、ホルスターに仕舞い振り返れば、
水面に顔を突っ込んでいたサクラに思わずぎょっとする。
「ねぇ、見てみて! 魚がいるわよ!」
ザバリと上げた顔を猫が顔を撫でるように拭きながら、サクラは瞳を爛々とさせていた。
「サクラ、あまりはしゃぐな」
「えー! だってすごい! オアシスよオアシス!」
きゃっきゃとまるで子供のようにはしゃぐサクラに思わず頭を抱えそうになり、溜息を吐く。
木の葉から嫁ぎ、砂隠れ以外殆ど出回ったことがない事に気がつき仕方がないかと納得させる。
「あのな、」
少し気晴らしに、今度都にでも行こうか。と言おうとした口を開けた瞬間、バシャリ! と顔見水が掛かった。
「あっはははは!我愛羅くんのまぬけー!!」
「お、まえは…!」
ひー! と腹を抱え盛大に笑うサクラにヒクリと口元が動き、バケツのように模った砂で水を掬い、お返しにサクラの頭上から盛大に水を掛けてやった。
「あっぶ!なにするよの!」
ずぶ濡れになったサクラが、ヒドイ! ロクデナシ! と声を荒げ憤慨するが、お前が悪いと言い放つ。
その言葉が頭にきたのか、顔を真っ赤にする。
パシリと右腕を掴まれた瞬間、視界が反転しザバン! と水の中に投げ入れられてしまった。
「くそ……」
全身水に浸かり濡れて気持ちが悪い。
そこまで深くないオアシスの水の中、尻餅をついた俺の周りを驚いた魚達が警戒するように周りを泳いでいる。
濡れた髪を掻き揚げ、サクラを見上げれば未だ腹を抱えて笑っていた。
右手をゆっくりと上げ、ぐっと握り拳をすると同時に、サクラの背を砂でトンと押す。
「ぎゃっ!!」
色気のない叫び声と共にザバン! と水飛沫を上げたサクラが水の中に落ちてくる。
浅い水の底に両手をつけ、ムクリと顔を起こしたサクラが両手で水を掛けてきた。
それから二人とも、年甲斐無く水を掛け合いギャーギャーと煩くオアシスで叫び合った。
「気持ち悪い」
「同感だ」
「……帰ったらお風呂に入りましょう」
「……同感だ」
2015.我サク独り祭り
009.水辺の戦争