学パロ
「じゃあ、教室の戸締りよろしくー」
鍵は後でもって来てねーと雑誌を読みながら話をする担任に、はあ、と気が抜けた返事をする。
職員室から廊下に出たところで、外の日が沈んでいるのに気がつき腕につけている時計を見た。
「もう、19時か……」
特に観たいテレビがあるわけでも無かったが、何となく早く帰りたいと思ってしまう。
こんなときに学級委員は面倒くさいな。とほんの少しだけ我愛羅は小さく溜息を吐いた。
教室に戻り、戸締りをして鞄を持ち、扉の鍵を締め様としたところでバタバタと足音が聞こえる。
「ま、待ってー、鍵締めないでー!」
階段から上がってきたのはクラスメイトの春野サクラ。
肩で呼吸をしながら我愛羅の前に立ち止まり、再度、待ってくれ。と我愛羅を止めた。
「どうしたんだ」
「け、携帯を忘れて……」
ああ、そういう事か。
肩でゼィゼィと呼吸を繰り返すサクラに大丈夫か? と顔を見る。
「だ、だい、丈夫……! ごめんね、さっき職員室に行ったらカカシ先生が鍵は我愛羅くんが持ってるって言ってたから」
「委員会の仕事で残っててな、それで最後戸締りを頼まれたんだ」
カラカラと教室の扉を開け、机の間を抜けパタパタと急ぎ足でサクラは自分の机に向かう。
机の中に手を入れ、あった! と桜の花弁が描かれたピンクのカバーをつけた携帯を取り出した。
「いつ気がついたんだ?」
「ん?」
携帯片手に教室入り口まで歩いてくるサクラに、我愛羅は質問をする。
「いつないと気がついたんだ? もう随分と時間が経つだろう」
学校が終わり、確か早々に帰宅していたはずだとサクラに問えば、ああ! と眉を下げて笑った。
「実は学校帰り直ぐに図書館に寄ってさー……全然気がつかなかったのよ。何時だろう? って時間見ようとしたら携帯がなくて」
「そうか」
「そうそう、これも数学のせいよー……」
ガクリと肩を落とすサクラの横で扉の鍵を締め、我愛羅は首を傾げた。
「数学? 苦手だったか?」
おや? と思い我愛羅は質問を投げかければ、サクラは少し言葉を濁して、頬を掻く。
「あ、うーん……今回のテストで間違えた箇所があったからさー」
我愛羅を見ながら、あ。とサクラは声を上げた。
「そういえば、我愛羅くん数学得意だったわよね!」
「……まあ」
このパターンはもしや。と我愛羅は心中思う。
両手を組み合わせ右頬魔で持ち上げ、パチパチと瞬きを繰り返し、サクラは我愛羅を舌から覗き込んだ。
「数学、教えてくれないかなー」
まるで、おねだりをするようなサクラに、我愛羅はヒクリと口元を引き上げる。
「メリットが無い」
「えー!」
馬鹿な事言ってないでさっさと帰るぞ。と我愛羅が廊下を歩くのをサクラが後ろを着いて行く。
「いいじゃないー、何でもするからさー」
後から着いてくるサクラの言葉に、我愛羅はピタリと足を止めた。
「何でも……?」
「そうそう!」
口元に手を当て、少し考えた我愛羅は目元を細めてもう一度"なんでもだな"と確認する。
「いいだろう、その代わりお前にしてもらうことがあるぞ」
「え」
ガシリと我愛羅に腕を掴まれ、職員室まで連れて行かれる。
一体なんなのかと思いサクラが顔をあげたところで、担任であるカカシが、やぁ。と右手を上げた。
「カカシ、丁度いい人材が居た」
「おおーサクラか。そりゃ丁度よかったよ」
よかった、よかったと繰り返すカカシに、サクラは何事だと視線で訴える。
「ああ、修学旅行の女子実行委員ね」
「はあ!?」
「因みに男子は我愛羅くん、まあ仲良くしながら頑張って」
ぐっと親指を立てるカカシを一瞥し、我愛羅に視線を向ければ素知らぬ顔をして、うんうん。と頷いている。
「聞いてない」
「何でもすると言っただろう」
数学を教えてもらう交換条件が、まさかの実行委員とは! 項垂れたサクラの肩にぽんっと我愛羅が手を乗せる。
「よろしくな」
「……よろしく」
不本意ながらも、任されてしまったのでサクラは腹を括るしかなかった。
「あ、そうだ」
ごそごそと鞄の中から携帯を取り出した我愛羅にサクラがどうした。と聞けば「番号交換しておこう」と携帯を出せと言われる。
「連絡手段がなければ色々と不便だからな」
「……色々とねぇ」
呟き、ポケットから携帯を出したサクラに我愛羅は携帯をはい、と渡す。
「え?」
「使い方が分からん……」
まさか携帯を渡されると思っていなかったサクラだが、我愛羅の言葉に目を丸くする。
「え、ちょっと、自分のでしょう……」
「機械はわからん」
言い切る我愛羅に、これはこうするのよ! と携帯を見せながらサクラは説明をしていた。
そんな二人を微笑ましく見ていたカカシが青春だねぇと呟きながら、若者向けの雑誌を一頁ペラリと捲った。
2015.我サク独り祭り
011.交換条件