ザワザワと響く人の声。
あちこちのテーブルで歌って騒いで、大笑いして。
幸せそうねぇ、と心の中で呟くサクラは頬杖をし目の前のカクテルを一気に飲み干した。

 一番端の角に座り、どこか遠くで騒ぎを見ていたサクラは頬杖をしていた。
ぼんやりと見ていれば目の前に落ちる影。
視線だけ動かせば、これまた珍しい人物が目の前に座ったのだ。

「楽しくなさそうだな」
「ん、そういうわけじゃないけど……我愛羅くんは楽しんでる?」
 にこり、と笑いサクラが問えば、そこそこだな。とそこらへんに置いてあったビールを持っていたグラスに注ぐ。
「いいの? ナルト達と一緒に居なくて」
「……煩すぎて逃げてきた」
 対面に座る我愛羅の言葉に、あらら。と思うがナルトとキバを筆頭にドンチャン騒ぎが凄い物だから仕方がないか。と納得する。

 目の前にある串焼きを我愛羅に食べるかと聞けば、コクリと頷いたので真新しい皿に取り分ける。
はい、と差し出せばありがとう。と答えた我愛羅がもぎゅもぎゅと美味しそうに食べるので、サクラは思わず微笑んでしまった。

「美味しい?」
「ああ、木の葉の食べ物はどれも美味い」
 自里を褒められるのは嬉しい。
思わず破顔するサクラを見て、我愛羅は瞬きをした。

「サク、」
「サクラちゃーん! なにそんな隅っこで飲んでんだよ!」
「そーだぜ、歌え騒げ!」
 我愛羅の声を掻き消したのはナルトとキバ。
腕を組みながら、顔を真っ赤にしていた二人は既に出来上がっていた。
そんな二人に巻き込まれる形で、サクラも我愛羅も騒ぎの中に駆り出され手しまえば、
あっという間に時間が過ぎてしまう。

 夜が更けた頃には深い眠りについている奴等がごろごろと転がっていた。

 貸切の店を静かに出て、真夜中の空気を肺に入れる。
うーん、と伸びをすればヒヤリと冷たい風が身体を包んだ。

「風邪を引くぞ」

 突然背後から聞こえた声に、思わず仰け反りサクラが振り向けば薄く笑う我愛羅が立っていた。
「びっくりしたー……我愛羅くんも宿に戻るの?」
「ああ……あのまま中で寝るわけにもいくまい」
 店の中で雑魚寝いているメンバーを思い出し、肩を竦めてサクラは笑う。

「うん、それがいい」
 突然の我愛羅の言葉に、何事だと思いサクラは首を傾げ見上げた。

「お前は笑っているのが似合うぞ」
 目尻をやんわりと、細める我愛羅の言葉にサクラは目を丸くする。
少しだけ頬を掻きながら、ありがとう。と感謝の言葉を述べた。

「あーあ、悩んでたのがちょっと馬鹿らしくなってきちゃった」
「どうかしたのか」
 ほろりと零したサクラの弱音。
話を聞くぞと、サクラの顔を覗き込む。

「いやー、なんかねぇ……周りの人達どんどん先に結婚したり、してさーって……」
 サクラも我愛羅も正直それなりにいい歳だ。
実家に帰れば、やれお見合いだ、やれ孫の顔が見たいだの散々言われるが、
そもそも相手が居ないのだ。そんなか同期は先に結婚やら婚約やらしていく。

「このまま綱手様みたいに独りで生きていこうと思ってるの」
「独身を貫くのか」
 くくっと肩を震わせて笑う我愛羅に、酷いわね! と少しばかり声を荒げた。

「サクラ」
「な、なによ……」
 至極真面目な声色。
サクラは思わず身を正す。

「実はな、最近周りから、見合いだの子供の顔を見せろだの言われていてな」
「へ」
 何を言っているのかいまいち理解できず、サクラは我愛羅を見上げる。
「見知らぬ者と家庭を持つつもりもなかったんだが……」
 顎に手を当てサクラを見下ろし、ふむ。と頷く。

「どうだ、独りを貫くつもりならオレと一緒になるつもりはないか」

 ぽかんと口を開けるサクラのでこを、ペシンと軽く叩けばサクラは瞬きを数回繰り返す。
「本気……?」
「冗談は言わん」

 独りを貫こうと決意した矢先、ぐらりと揺れる心臓。
我愛羅が嫌いなわけでも無い、寧ろ好感触だ。
それに我愛羅ともし共になれば木の葉隠れと砂隠れがより強固な絆で結ばれるかもしれない。

 父と母も喜んでくれるだろう。

 うぐぐと考えるサクラの頭にぽふんと手を置き、我愛羅は唇を引き少しだけ微笑んだ。

「幸せにしてやるぞ」

 何処からそんな自信が出てくるのか。
気がつけば、よろしくお願いします。と頭を下げていた。

 打算的な考えかもしれない。
だけどそこから手を取り合って生きていけば何も問題ないのだと納得させた。


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