誰でも利用可能な木の葉隠れの図書館。
仮にもこれから砂隠れで影として務めねばならぬ故、同盟国である木の葉隠れの事を少しでも知ろうと思い、
図書館を訪ねると、本の山が動いていた。

 夕刻の人が少ない時間帯。図書館内部は夕焼けで染まり烏の鳴き声が遠くで聞こえてくる。
扉の出入り口に立っていれば、その本の山がドンドンと近づいてくる。

 前が、見えていないのか。

 危ないな、そう頭を過ぎった矢先、ドンっと胸元にぶつかる衝撃。
本の山が「ん?」としゃべったかと思えば、本の山の横にひょこりと顔を出した人物が、あ。と声を上げた。

「ご、ごめん! 我愛羅くん居たの!?」
 あわわと目の前で慌てたのは春野サクラ。
砂漠では決して咲かぬ花の名と色を持つ、木の葉隠れのくの一。
「あ、いや……すまない」
 避ければよかったのだろうが、何故だが身体が動かなかった。
サクラが両手に抱えている本の山を見て、どうするのだと聞けば、今から読むのだと返ってくる。

「随分と大量だな」
「うん、医療忍者としてまだ任務に出してもらえないから、知識だけでも入れておかないと……」
 少し目を伏せれば、サクラの長い睫が静かに上下すれば、オレと似たような瞳の色が見え隠れした。

 なんと声を掛ければいいかが分からない。
大切な物を守る為に、たったクナイ一本で立ち向かってきた女が今は一人なのだ。
必死で足掻いているのが見て取れる。

「あ、の……」
「ん?」
 言葉が出ず、酷く情けない声でサクラに声を掛ければ首を傾げて笑った。
白い肌には少々目立つ目尻に出来た、隈。
 無意識のうちに手を伸ばし、人差し指を曲げサクラの目尻を触っていた。

「が、我愛羅くん……!」
 はっと息を呑むサクラの呼吸が聞こえ、一言「隈」とだけ短く言う。
どうしてこんな言い方しか出来ないのかと悩んでいたが、サクラは特に気にした様子もなく、へらりと笑う。
「最近寝不足で……」
「寝不足はよくないぞ」
 自分で言って、おかしいな。と思えばサクラもおかしいと思ったようで声を出して笑った。

「あっはは、まさか我愛羅くんに言われると思わなかったわ」
「……うるさい」
 いまだに笑うサクラの腕の中から本を半分ほど取り上げる。
「あ」
「何処に持って行くんだ」
 運んでやる。と言えば、じゃあお言葉に甘えて頼もうかしらと聞こえたので、コクリと頷いた。


「我愛羅くんは、」
 夕焼けが色を付ける時間。木の葉の里が橙に染まるのが綺麗だと思っていた。
サクラの横を言葉少なく歩いていれば、改まって名を呼ばれたので、なんだ。と答えるしかない。

「我愛羅くんは、よく笑うようになったよねぇ」
「……は」
 言っている言葉が理解できず、思わず眉間にぐっと皺が入る。
オレは今笑っていたのだろうか? と今までの時間を自問自答し思い出すが、笑った記憶など微塵も無い。

「気のせいじゃないのか」
「気のせいじゃないよ……明るく、なったのかな」

 もし、サクラが言うように明るくなったというのならば、今はここに居ない"うずまきナルト"の影響が大きいだろう。
では、サクラはどうだと思い、隣を歩くサクラに視線を向ける。

「お前は」
「え」

 少し落ち込むような、サクラにまとわりつく黒い陰。
そしてサクラが、笑わなくなったのだと理解する。

「お前は、笑っているのがよく似合う」

 理解したと同時に口から出る言葉。
"うずまきナルト"や"うちはサスケ"に笑いかける姿が、満開の花が咲くようだと思ったからだ。
 花が枯れるのは寂しいし、悲しい。

「……ははっ、我愛羅く、んにそんな事言われるなんて思わなかった」
 そうか、そうだろうか。
そんなおかしなことを言っただろうか。むむむっと眉間に皺を入れ考えるがよく分からなかった。

「ありがとう」

 眉を下げ、困ったように笑うサクラ。
そんな表情が見たかったわけじゃない。ただ、一度だけナルトやサスケに向けられた笑った顔が見たかった。

「別に、なにもしていない」
「いいのよ、私がお礼を言いたかっただけだから」

 もう一度笑ったサクラの顔が、夕暮れで橙に染まっていた。
やっぱり、笑っている姿がよく似合う。




2015.我サク独り祭り
015.それでも君は笑うから