我サク一家、息子視点。
息子=琉珂 娘=沙羅

成長した息子くん



 父上と母上は仲がいい。
それはそれは、こちらが目を背けたくなるほど仲睦まじいのだ。



「我愛羅くん、これさー」
「ああ、貸してみろ」

 手に持った本を一冊母上が、父上に手渡して。
ぱらぱらと目を通した父上が母上に本を返しながら「この作家のなら確か雲隠れに売ってたぞ」と一言告げる。

「そっかー、雲隠れかー……うーん、カルイさんに聞いてみよう」
 ありがとう! とにこやかに笑いながらリビングを出て行ってしまう。
何事もなかったかのように父上が新聞に視線を戻すのを見て、生温くなった湯飲みを掴んだ。

「よく……」

 ぽつりと呟いた僕の声に、父上が反応し顔をあげた。

「よく、分かりましたね」
「なにがだ……?」

 黒く隈で縁取られた父上の視線が自分に向いているのに、少しばかり緊張をする。
普段、仕事で忙しい父上が昼間に家にいる事は、まあ少ない。
ここ最近、他里へ外交に出ていた父上は代休らしくのんびりと家にいるのだ。

「あれだけで母上がなにを聞きたかったのか」
 僕には分からないですね。
そう言いながら、父上から視線を逸らし湯飲みに口を付ける。
ごくりと飲んだ、お茶はほんの少しばかり苦かった。

「ああ……そういうことか」
 目尻を細め小さく笑う。
父上がその表情を見せるときは大体、母上の事を想っている時だ。
こちらが恥かしくなるぐらい、幸せそうに微笑むのだからどうしていいか分からなくなる。

「夫婦だからな」

 さいですか。
少しばかりぞんざいに心の中で返事をする。
両親が仲がいい事に越した事はない。いい事に越した事はないのだが、時たま僕等の前でも新婚夫婦か! と問いかけたくなる行動をするから是非ともやめていただきたい。

「勿論、お前達の事もわかってるぞ」

 新聞を折りたたみ、よいしょと立ち上がった父上を視線で追う。
近づいてきた父上に、腕を伸ばしたと思えば無造作に頭をわしゃわしゃと撫でられた。


「お前もいつか、わかるさ」

 誰かを愛する事と愛される事。
笑った父上が一度あくびをしてリビングの出入り口に向かう。
 ソファ越しに父上の背中を見れば、やっぱり大きいなぁと思うんだ。

「あれ、どこか行くんですか?」
「ん、ああ。サクラと隣街まで出かけてくる」

 じとりと目を細めれば、土産は何がいい。と聞かれたので「チーズケーキ!」と咄嗟に口からついて出た。
皆で食べられるし、いいじゃん。

「あ、あと! 今度木の葉に行った時にいのじんに鳥獣戯画教えてもらうから筆と紙もほしい!」
 そういえば「わかった、買って来よう」と父上が笑うので僕も嬉しくなって、何故だか笑ってしまった。

「あらー、何々? 二人で何か良い事あったの?」

 二階の階段から降りてきた母上をよく見れば、少しばかりおめかししている母上がにこやかに笑っていた。
 父上と久々に出かけるから嬉しそう。

「ううん、なんでもないよ。気をつけていってらっしゃい」

 そう言えば、首を傾げる母上の腕を引いて父上の声が「行ってくる」と背中越しに聞こえた。

「あ、そうそう! 沙羅が守鶴の所に行ってるから、後で迎えに行ってあげて」
「うん、わかった」

 ソファの背凭れに腕を乗せ、ヘタリと顔を腕に乗せる。
いってらっしゃーい、とのんびりと手を振れば母上が「お土産期待してるのよー」言いながら玄関から出て行ってしまった。

 本当、仲が良いなあ。

「多分、明日の夜まで帰ってこないからカンクロウ叔父さんの所に行ってよう」

 よいしょ、と口をつい出てた言葉に、少しばかり父上みたいだな。と自分で思わず笑ってしまった。

「あー、次は弟が欲しいなー」

 いつまでも新婚みたいな両親だから、見てるこっちが恥ずかしい時もあるけど。
やっぱり二人が笑っていれば、僕達も笑っていられるんだ。

「愚痴は今度、いのじんに言おう」

 うんうん、と頷いて瞼を閉じれば、穏やか過ぎる空気にゆるりと眠りへ誘われた。



2015.我サク独り祭り
024.僕の両親は、