春の訪れを告げるほんの少し肌寒い風。
久方ぶりの木の葉の里に少しばかり浮かれてしまった。


「っくしゅ! うー、寒いわね」

 両腕を摩り、ずっと鼻を鳴らすと向かいに座っていたいのから「そんな薄着してるからよ」と少し呆れた顔をして言われてしまった。



「あー、お茶が美味しいー」

 運ばれた湯気が出るほど熱いお茶。
湯飲みを両手で掴み、一口飲んでほっと一息つけば視線を感じて瞬きを繰り返す。
どうしただろうかと、ことりと首を傾げたサクラを少しだけ面白くなさそうにいのは見つめた。

「アンタ、ちょっと変わったわね」
「え、そうかな……?」

 自分では変わったつもりなんてあるわけがない。
木の葉にいたときと何も変わらないはずだと、サクラは久々に会った親友の言葉に自問自答を繰り返す。

「あー、なんかねぇ。今、凄く幸せっていうオーラ滲み出てるもの……こう、愛されてるって理解してるって言うかさー」

 つまんないのー。と背凭れに肘を付いたいのは人が行き交う窓の外を眺める。
ちらりと視線だけをサクラに向ければ、湯飲みを見つめたまま頬を紅く染めていた。

 ああ、可愛いわね。こんな表情もできるようになったのね。
まるでサクラの姉のような、親のような心境で、
サクラが何か考えコロコロと表情を変えているのをいのは穏やかな気持ちで見つめていた。

「アンタ今、幸せ?」
「……うん」

 はにかむような表情を見せたサクラに、いのはパチパチと瞬きを繰り返して、眉毛を少しばかり下げて笑った。

 木の葉から出て行って。
まったく違う環境で。影となる旦那を支えるのがどれだけ大変か理解できない。
そもそも、相手があの砂隠れの風影の我愛羅だ。
いのからしてみれば謎に満ちた生物で、表情一つ変えやしない。
堅物であるあの男と一緒にいて何でそんなに幸せそうに出来るのか。
とんと検討がつかないのである。


「我愛羅くんって愛情表現とかするの?」
 寧ろそんなに話すイメージもなさそうなんだけど。
そんなことを思いサクラに問えば、勿論よ! と笑いながら返される。

「ああ見えてさ、我愛羅くんってすっごいの! 愛してるって言ってくれるし、私が寝れない時なんて頭撫でてくれたりするのよ」
 頬に手を当て、うっとりしながら話すサクラに思わず
飲んでいた紅茶を吐き出しそうになったが、あの朴念仁がねぇと考えれば少しばかり興味が沸いた。

「え、ちょっと我愛羅くんってどんな感じなの?」
「どうって……」

 じとりと目を細めたサクラに「ちょっと教えなさいよー」といのは笑う。

「ぜんっぜん想像つかない」
「そうかしら……」

 ケーキをぷすりと刺し、口に銜えいのが肩を竦める。
そうかなぁ。とサクラがぶつぶつ小声で呟いたところで、店のドアがカランと音を上げた。


「あ、サックラちゃーん。それにいのも居たのか」
「居たのかじゃないわよ、ったく……」

 へらりと笑う次期火影候補に我愛羅も連れてこられたらしい。

「いやー会議終わってさー」
「アンタ六代目に迷惑掛けてないでしょうね」
「いやいや、何言ってんのサクラちゃん! カカシ先生のサポート俺がやってるんだってばよ!」

 きゅっと目を細め、心外だ! と口にする火影候補ことナルトにサクラは「アンタも成長したのねぇ」としみじみと呟いた。

「サクラ、もう今日の仕事は終わった。ご両親の元に帰るぞ」

 ナルトの頭を押さえつけながら、サクラに帰ろうか。と告げる我愛羅を見ていのは、にやんと唇を引き上げた。

「我愛羅くんって、サクラのことどう思ってるの?」
「は……」

 突然いのに問われた我愛羅は、何を言っているのだと視線を向ける。

「どうって、それは……」
 好きでなければ、結婚はしない。
愛していなければ共に隣を歩もうと思わない。

 だが、ここは人が多いカフェ。
さらに言えば、次期火影候補と同盟国とは言え他里の影が共にいるのだ。
ちくりちくりと興味を持つ視線を感じているのだ。

 にこやかに笑ういのが「どう思ってるのかしら」ともう一度問うのと同時に、
我愛羅は真横から熱い眼差しを感じソロリと視線を動かした。

「ぅ……」

 キラキラと輝くような翡翠の瞳。
早く早くと期待を込めた眼差しに、我愛羅は柄にも無く冷や汗を掻く。

「ねえ! 我愛羅くん!」
「うぅ……」

 サクラといの、そして興味本位で何事かと眺める客と店員の視線に我愛羅は逃げられなかった。

「サ、」
「サ?」

 サクラが我愛羅の顔を覗き込めば、思ったよりも頬が紅く色付いていた。

「サクラ……あ、愛してる……」

 顔から熱が出るのではないかと言うほど。
我愛羅は体温が上昇するのを理解する。

「うふふふー! 私もよ! 愛してる!

 店内にも関わらず、ぎゅーっと我愛羅を抱きしめるサクラに、
その場に居合わせたナルトは「リア充め……」と頬を引き攣らせた。

「帰るぞ!」
「わ!」

 ぐっと突然、我愛羅はサクラの腕を強引に引く。
そのままレジに向かい懐から無造作にお金を取り出し「迷惑を掛けたな!」とレジに立っていた店員に告げた。


「あらら、行っちゃったわ」
「いのー、あんま我愛羅をからかうなってば……アイツああ見えてシャイなんだぜ」

 その場に残されたナルトといのは二人が立ち去る後姿を眺めて居た。




「そう言えば、我愛羅くん盛大に告白したんだってね」
「いやー、父さん嬉しいよ。そんなにサクラを大切にしてくれるなんてね」

 大笑いしながら夕飯の鍋を突っつくキザシ達に我愛羅は何も言えず、ヘタリと顔をテーブルに引っ付けた。

「もうあの店には行けん……」
「えー、今度一緒に行きましょうよ。あそのこケーキ美味しかったわよ」

 じとりと視線を向ける我愛羅なんて、なんのその。
サクラは一口、肉を頬張り「ああ、おいしい」と呟いた。



2015.我サク独り祭り
027.言ってみて!