よいしょ、と自宅の階段を下りるサクラをハラハラしながら見つめる我愛羅。
その視線に気がつき、心配性ね。とサクラは随分と大きくなったお腹を摩った。
一歩一歩ゆっくり降りてくるサクラに右手を伸ばし、身体に不調はないか、怪我はなかったかとしつこく聞けば、
眉を下げ、サクラは大丈夫だから行きましょう。と我愛羅と手を繋いだ。
手を繋いでゆったりと里内を回り、散歩をする。
市場のおばさんや、親父さんに若い夫婦。アカデミーの子供達や暗部の人達。
穏やかに笑えば笑い返してくれるのが、サクラは嬉しかった。
「随分と嬉しそうだな」
「うん、嬉しいよ……」
子供が出来て、里の人達に少しずつ認められてきている。
こんなにも嬉しい事なんてないのだ。
にこりとサクラが笑えば、我愛羅は繋いでいる手のひらに、少しばかり力を込める。
「幸せか」
「幸せですよ」
ゆったりと歩きながら、他愛のない話を繰り返す。
途中で花屋によって、仏花を手に日差しが強くない里を歩き、目的の場所まで向かう。
「あ、テマリさん達が先に来たみたいよ」
「そうだな、掃除をしているな」
綺麗に磨かれた、墓石。
備えられた花を見てサクラは、もう少し早く来ればよかったね。と我愛羅に笑い掛ける。
「まあ、仕方がない」
そう言い、我愛羅は静かに墓石の前に立つ。
父と母、そして叔父である夜叉丸の名が刻まれた墓石の前に、我愛羅は花屋で買った仏花をそっと置く。
「父様、母様……夜叉丸」
ぽつりと呟く我愛羅の隣に、サクラは口を閉ざしたまま静かに並ぶ。
「伝えたい事も沢山ある、聞きたい事も沢山あった」
もうこの世にいない三人に我愛羅は話しかける。
「あったが、ここにきたら忘れた。だからまた今度来る」
「もう、我愛羅くん……」
目元を細めて、我愛羅がふわりと笑う。
「今度来るときは、三人で来る」
短く告げ、墓石を一度撫でてサクラを見た我愛羅は帰ろうか。と笑いかけた。
「ねぇ、我愛羅くん」
「どうした?」
少し、真剣な声色だったサクラの顔を覗き込む。
「ちょっと、先に行ってて」
「え、おい……」
ぐいぐいと背中を押してくるサクラに困惑しながらも、言われたとおり霊園から大人しく出て行く。
我愛羅が出て行くのをしっかりと見届けて、サクラはくるりと振り返る。
誰も居ない墓石を前に、サクラは頭を下げた。
「我愛羅くんを、産んでくれてありがとうございます。護ってくれて有難うございます。皆さんのお陰で我愛羅くんと出会うことが出来ました」
さらさらと通り抜ける風。
「我愛羅くんを愛してくれて、ありがとう」
笑ったサクラに同意するように、お腹の中の命が存在を主張する。
うん、と頷いて我愛羅が待つ霊園の入り口までサクラはゆっくりと歩いていく。
これから大変な事もあるだろうし、困難な事もあるだろう。
それでもお互い協力し合えばきっと乗り越えられるはずだから。
風に揺れる仏花が、静かに笑っていたような気がした。
その健やかなる時も、病めるときも、
喜びのときも、悲しみのときも
富めるときも、貧しいときも
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け。
その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか
2015.我サク独り祭り
10. この命ある限り