※我愛羅とサクラの子供
 長男=琉珂(ルカ) 長女=沙羅(サラ)


 我サク一家
 


「父上様!」
「お父さん!」

 ガチャン! ガチャン!

 仕事の合間に家に戻れば、普段サクラが使っている台所が戦場と化していた。





 貴女に愛を




「……なにをしている」
「えーっとね……」

 歳はやっと7つになった息子に問いかければ口篭りながらも腕の中にはしっかりと銀のボウルと泡だて器があった。
 何となくの予想はつく我愛羅だったが、一体なにをどうすればここまで汚せるのか。
 はあ、と溜息を吐くとガチャンと扉が開く気配がした。

「我愛羅、戻ってたのか」
「……テマリ」
 背後から声をかけられ振り返れば、我愛羅の姉であるテマリの姿。
 手には紙袋を持って居た。

「テマリさん! お帰りなさい!」
 伯母であるテマリを、伯母さんと呼ばず名前で呼ぶのはサクラの教育の賜物か。
 はたまたテマリを本能的に恐れたのか。
 我愛羅は一瞬、そんな事を考えたが意識をすぐ目の前の姉に向けた。

「テマリ……何かするのはいいがこいつらから目を離すな」
「悪かったよ! あー……それにしてもまた、やっちゃったなー」
 我愛羅の言葉を聞き、テマリは少しの間目を離したことを後悔した。
 本の数分前まで綺麗に片付けられていた台所は、物は散乱し、卵の殻は其処彼処に放置され、
床には大量の牛乳が零れていて掃除が大変だな、とテマリの頭の中を過ぎった。

「父上様!!」
 テマリがタオル取りに向かうのを見ていた我愛羅に、我愛羅の幼い頃に似た長男の琉珂がジッと見上げた。
 我愛羅は片膝を付いて視線をあわせた。
「……どうした」
 我愛羅の言葉に琉珂ニコニコと目尻を下げ笑う。
 笑った顔はどことなくサクラの面影があった。

「父上様にSS級任務をお願いします!」
「ん?」
 琉珂の背中にしがみ付き、我愛羅を見る娘の沙羅。
 サクラに似てくれて我愛羅は良かったと思ったのは内緒だ。
 じっと見つめてくる四つの純粋な瞳に我愛羅はとことん弱かった。



***
 

「ううーん?」
 頭を抱え声を上げる、難しい表情で分厚い本を読んでいたサクラ。
「サクラさん、少し休まれたらどうですか」
「マツリちゃん……ありがとう。でもこれをどうにか……」
 そっと差し出されたお茶。
 湯飲みには茶柱が立っていたのをサクラは眺めていた。

「でも今日は楽しみですね」
「ん」
 側近であるマツリの言葉に顔を上げたサクラは首を傾けた。
「だって今日お誕生日じゃないですか。先生も何かしてくださるんじゃないですか」
 まる自分のことのように笑うマツリにサクラは少し微笑んだ。
「うーん、我愛羅君はわかんないけど。なーんか子供達が妙にそわそわしてたのよね…
何かしてくれるのはいいんだけど心配よね……家が心配だわ」
 ふぅと溜息を吐くサクラは母親の感かいつもと違う子供達の様子に気がついていた。
 一口飲み、ほっと一息ついて湯飲みを机に置いた。

 ガチャリ

 扉の開く音。
 突然現れた人物にサクラとマツリは驚いた。
「か、風影様!」
「我愛羅君、どうしたの」
 研究室という名のサクラの仕事場。
 そこに我愛羅が来る事は極めて珍しかった。

「……仕事でちょっとな」
 そう言い、つかつかとサクラの前まで足を進めて我愛羅はサクラの右腕を掴んだ。
「へ」
「行くぞ」
「ちょっと……我愛羅君!? どこによ!」
 無理やりサクラを立たせ連れ出す我愛羅に、ただ目を丸くするしかなかったマツリ。
「ごめん! マツリちゃん、後お願いするわねー!」
「は、はい!」
 遠くから聞こえるサクラの声に返事をするマツリの声が廊下に響き渡った。




 腕を掴んだ我愛羅の手はいつの間にかサクラの掌を握り締めていた。
 握り締められた掌にほんの少し頬を赤くしてサクラは少しだけ前を歩く我愛羅の背中を見た。
「どうしたのよ。一体……」
 口元をきゅっと下げたサクラの表情を見た我愛羅は目を少しだけ細めて、サクラの掌を握り締めている手に力を入れた。

「たまに二人で散歩をするのも悪くない」
 そう言って笑った我愛羅に目を丸くしたサクラはゆっくりと視線を地面に向けた。
「うん……」
 サクラは優しく口元を緩めた。

「全く……いつからこんな事を言える様になったのかしら」
「なんか言ったか」
 ポツリと呟いたサクラの言葉に反応した我愛羅。
「なんでもないわよ」
 その言葉に疑問を持ちつつもサクラが笑っていたので我愛羅はよしとした。




***


「おい、我愛羅とサクラが帰ってきたぞ」
「大丈夫だ。こっちの準備は終わった」
 窓の外を見ていたカンクロウの声にテマリが返事をした。


「ただいまー……あれ? テマリさん、カンクロウさん来てたんですか」
「お帰り。お邪魔してるよ」
「邪魔してるぜ。帰ってくるの早かったな」
 テマリとカンクロウが玄関口で出迎えればサクラは驚いた表情を見せた。
「まあ、まあ細かい事はいいじゃないか」
「そうじゃん、なあ我愛羅」
 サクラの後ろに居た我愛羅にカンクロウが同意を求めればコクリと頷く。
「サクラ、ささ、こっちこっち」
「え、あ、ちょっと……!」
 テマリに背中を押されリビングの扉を静かに開けた。

 パーン! パパーン!

「母上様! お誕生日おめでとう!」
「お母さん! お誕生日おめでとう!」

「わっ、ぶっ」
 思ったよりも近くで鳴らされたクラッカー。
 顔についた紙を右手で取り、パチパチと瞬きをすれば目の前に広がる光景にサクラは目を丸くした。

「……これは」
 いつもと違うリビング。
 花や折り紙で彩られた室内。
 拙い文字で『お母さんおたんじょうびおめでとう』と書かれたポスター。

 ジワリと目頭が熱くなるサクラ。
 一度、スンと鼻を鳴らせばそれにつられ、琉珂と沙羅はサクラに飛びついた。

「「うわあああーん!! お母さーん!!」」
「琉珂……! 沙羅……!!」


「……え、何これ?」
 泣きじゃくりながら熱い抱擁を交わす母と子を立ち尽くして見るしかなかった。






***


「疲れて寝ちゃったみたい」
 タオルで髪を拭きながら、ガチャリと扉を開け寝室に入るサクラの言葉に我愛羅は本から顔を上げた。
「だいぶ、はしゃいでいたからな」
「んふふ、まさかあの子達に祝ってもらえるとは思わなかったわ」
 ベットに座っていた我愛羅に横に腰を下ろし、サクラは我愛羅の顔を覗き込んだ。

「今日はありがとう」
 笑うサクラに我愛羅は腕を伸ばし、サクラの肩を引き寄せた。

「礼を言うのを俺のほうだ」
「あら、珍しい」
 素直に感情を表すのが苦手な我愛羅が何もなく感謝の言葉を述べた事にサクラはくすくすと肩を揺らして笑った。

「サクラ」
「なあに」

 ニコニコと笑うサクラに我愛羅は優しく笑った。


「誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう」
「どういたしまして!」


 華の様に、サクラが笑った。





2014.3.28