ふわふわと柔らかく心地良いものに包まれ、微睡む意識の中はたりと思う。
寝る前に何をしていたのかと。眉間に皺を寄せガバリと起きればそこは真っ白な室内。
 手元を撫でれば、カサリと白いシーツが音を立てる。

「……病室?」
 頭を抱えたサクラは何かとんでもなく、恥かしい事を仕出かしたかもしれないと記憶を探った。

 ガラリと音を立て開いた扉に顔を向ければ呆然と立ち尽くしたマツリが居た。

「あ……」
「マ、マツリちゃん……」
 お久しぶり。と声を掛けようとしたが「うわあああ!」と叫び出て行ってしまった。

「……廊下は走っちゃ駄目よ」

 突然の事につい出てしまった言葉は誰にも聞こえない。
遠くで「我愛羅様ー!!」とマツリの声が聞こえた。








 目の前で無表情で見下ろしてくる人物にサクラは思わず唇を引き締め、布団のシーツを握り締めた。

「随分と寝ていたようだな」
 その声は怒っているのか、はたまた忙しい中呼ばれたから機嫌が悪いのか。
サクラには計り知れず、つい「すみません……」と言葉を漏らす。

 そんなサクラに、目の前で立っていた我愛羅ははぁ、と溜息を吐いた。

「……一週間だ」
「え?」
 何の事か分からず疑問の言葉をが口から出た。

「一週間寝ていたぞ」

 我愛羅のその返答にヒヤリと寒気がする。

「い……一週間!?」
 頭に過ぎるのは仕事はどうした。確か綱手に言われていた新薬の効用と副作用を纏めよと言われていたのは一週間後ではなかっただろうか。
医療忍者の育成カリキュラムについては残り三日しか期限が無かったはず。
 提出期限が遅れた時の綱手がいかに怖いか、間近で見てきたサクラは「殺される……」と呟き頭を抱え一人で百面相するサクラに、我愛羅は肩を震わせクツリと笑った。

「な、なによ……!」
「いやいや、すまん。可笑しくてな」
「綱手様の怖さを知らないから笑っていられるのよ……! レポートの提出期限が遅れたときの綱手様がどれだけ怖いか!!」
 うああと頭を抱えたまま布団に顔を埋めたサクラに我愛羅は顔を逸らし笑った。

「提出期限は守ってもらわねば困る」
「分かるけど! 現場の意見も聞いて無理のない期間を設けないと、現場は地獄をみることになるわ!」
「承知した。肝に銘じておこう」

 参ったと言うように我愛羅は両手を軽く挙げた。
それを見て、ふふんと笑うサクラに我愛羅は少しだけ目を細めた。

「それにしても大変だったぞ」
 ふと何かを思い出したかのように我愛羅は顎に手を当てサクラを見る。

「え、何が……」
 なんのことっだか見当付かずに首を傾げただけのサクラに「ナルト達だ」と我愛羅は話す。

「お前が起きるまで砂隠れに居ると言い出してな」
「えぇ……」
「挙句の果てに気を失っているお前を抱え木の葉に帰るだの……」
「そ、そう」
 想像に容易く額を押さえサクラは項垂れる。

 最終的に暴れまわるナルトをサイとサスケが押さえ込んだのはいいがサスケからも「サクラに何かしてみろよ」と牽制されたのも記憶に残っている。
サイに至っては「風影様だし大丈夫と思いますけど。だって風影様ですし」と異様に風影を連呼していた。

 どうも気に入らなかったらしい。
 サクラを探しに行った、あの薄暗い森とも洞窟とも言い難いあの場所。
サクラを先に探し出す云々言っていた奴等の目の前でチャクラ切れで倒れこんだサクラを咄嗟に抱えたのが我愛羅だった。
 それだけなら露知らず、魘されるサクラ自身が我愛羅の服を掴んだまま離さなかったのだ。

 それはそれは、ナルト達からしたら至極面白くない事である。



「なんか、ゴメンね……」
「気にするな」

 頭を下げるサクラにそう返すとサクラは突然「へへ」と笑う。

「なんだ」
「んー……なんだか不思議だなと思って。こんなに我愛羅くんと話すだなんて」
 あの時我愛羅の前で馬鹿みたいに号泣したものだから、我愛羅に対して恥かしいという感情は無いのかもしれないとサクラは内心考えた。

「あ、そうだ……あの子は」
 心の中で気になっていた事を我愛羅に問う。ゆらりと揺れた瞳に我愛羅はゆっくりと視線を外し、窓の外に視線を向けた。

「砂隠れで、唯一花が咲き生きる場所がある。砂に生きるものが癒しを求め、安寧を求める場所だ。
とても綺麗で美しい。あそこならば穏やかに眠れるだろう」

 我愛羅の言葉に視線をさ迷わせ、同じように窓の外を見てサクラは「そう……」と呟く。
あの少年の気持ちとサクラの気持ちを我愛羅なりに汲み取っての行動。
それがサクラには嬉しくて、仕方が無かった。

「ありがとう」


 ありがとう。
 何度も呟くように、何度も何度もありがとう。と言葉を繰り返すサクラに
ふっと口元を緩め笑みを浮かべた我愛羅は「サクラ」と名を呼ぶ。

「もう直ぐ春だ。綺麗な花がもう直ぐ咲くだろう。お前も顔を出すといい」
「うん」

 穏やかに笑ったサクラを見て我愛羅は小さく息を吐いた。


「暫く寝ていろ。火影には伝達しておく」
「え、でも!」

 くるりと振り返り病室から出ようとする我愛羅の言葉にサクラは思わずベットから出ようとするが
足に力が入らずガクンと膝が折れる。


「一週間寝ていた奴が直ぐ動けると思うな」
「……すみません」
 我愛羅に支えられたサクラは簡単に押し戻されてベットに沈む。
 息を吐き額を押さえ、こう無茶ばかりするのを見ているとナルト達がああも過保護になるのが分かる気がした。


「いいから寝てろ。暫く動くな」
「はい」

 布団に入っておとなしくするサクラを見て病室の扉に手を掛けたところで我愛羅は思い出したように顔だけ振り返る。

「それとサクラ」
「はい?」
 まだ何か用があるのだろうか? 大人しくベットに入っているというのに。
そう思いながらサクラは不思議そうに我愛羅を見る。



「……お前、誰彼あんな顔をするのはやめたほうがいいぞ。変な男に纏わりつかれるぞ」
「え」

 それじゃあな。と言いさっさと部屋を出て行く我愛羅にただ、目を丸くしたサクラは
何のことを言っているのだろうか。
 両頬を押さえ真剣に考えるが皆目検討が付かない。
一体自分は我愛羅の前でどれだけの失態を犯してきたというのだろうか。



 うああああと頭を抱え枕に顔を埋めたが心当たりがあり過ぎて、真っ白い枕をぎゅうっと抱きしめた。


「……あ、勿忘草」


 気が付けば窓辺に置かれた花瓶に勿忘草が笑うように揺れていた。




to be continued