オギャァ……ォギャァ、と聞こえた声がとても遠くで聞こえている気がした。
 木の葉の忍や実の姉、そして義理の両親がその場に居るのを忘れてただ立ち尽くしていた。

 待ちわびたと同時に沸き起こる恐怖心。
 動く気配が無いがない我愛羅の背中を押したのは姉であるテマリだった。
「我愛羅、あんたが行かなくてどうする」
 ドンッと背中を押され、一歩踏み出した。
 ドクリと煩い心臓の音と子供の泣き声が聞こえてくる。
 ザワザワと煩く流れる自分の血液の音が頭の中に響き渡った。

 ゆっくり近づいて、無意識に腕が子供に伸びていた。
 ドクリと心臓が跳ねたのは、サクラが掌を我愛羅の掌に重ね合わせた為。
「我愛羅君」
 サクラの声が我愛羅の耳に響く。
「私たちが、護らなきゃいけない存在ね」
「そう、だな……」
 産まれたばかりの子供の頬にソッと触れた。
 じわりと目頭が熱くなるのを知らないフリをした。

「ふふ、小さいわね」
「ああ小さいな」
 うーんとぐずり出す子供にサクラが優しく笑った。

 穏やかに流れる時間。
 それを壊すガシャン! と何かがぶつかる音が辺りに響き渡る。

「サ、サクラちゃん!」
 その場の空気も全く読まず突如として現れた金髪の男は涙を流していた。
「頑張ったってばよ! サクラちゃん!!」
 わんわんと号泣するその男、ナルトを見てサクラは笑う。
「あっはは! 何でアンタが泣いてんのよ!」
「……全くだ」
「だって、だってよー!」
 嬉しいのか、悔しいのか。
 ナルトの心中は分かりかねるが泣きながらも笑っていた。

「忍術なら俺が教えてやるってばよ!」
「フン、お前に教えられるかウスラトンカチ」
「体術なら僕にお任せください! きっと立派な体術使いに育ててみますよ!」
「そんな汗くせーのよりも将棋のほうがいいぜ」
「なに言ってんのよアンタ達。今の時代男も料理ぐらい出来ないと!」
「そーよ、忍術よりも今は家庭的な男よ!」

 開け放たれた扉の先でナルトを筆頭に好き勝手に言い合う木の葉の忍達に我愛羅とサクラは顔を見比べた笑いあった。


「お前達、いつまで騒いでるんだ」
 何時までも騒いでいるナルト達に綱手が呆れた表情を見せた。
「えーだってよー、バーチャン!」
「いいからお前達は早く戻れ!」
 ナルト達を力づくで押し出した綱手にナルトは「なんでだってばよ!」と言葉にした。

「サクラを休ませろ。それに、家族だけで話をさせてやれ」
 綱手の言葉にハタリと言葉を噤んだナルトは少し眉間に皺を寄せたが、すぐさまニカリと笑った。
「おう! サクラちゃん、我愛羅! また後でな!」
「そうねー、サクラ。明日また来るから必要なものがあったら教えてね!」

「うん、ありがとう! 皆!」
 出入り口から聞こえた声にサクラは少しだけ大きな声でお礼を述べた。
「…ぅ…ぅう…」
 声に反応したのかぐずり出した赤ん坊にサクラは優しく頬を触れた。
 そっと、ベットに腰を下ろした我愛羅はサラリと流れるサクラの髪を耳に掛けた。

「サクラ、ありがとう」
 まっすぐ、サクラの瞳を見て言葉を述べる我愛羅に少し驚いた表情をしていたが、
すぐに目尻を下げてサクラは笑った。

「皆で、幸せになっていきましょうね」

 サクラと一緒なら大丈夫だ。
 我愛羅は強く確信を持ち、壊れぬよう、壊さぬよう、赤ん坊を優しく撫でた。


 新しい命が一つ誕生した。