吹き抜ける風が桜色の髪の毛を躍らせる。
 殺風景であるこの場所に、親友の花屋から特別に加工してもらったお花を添える。
片膝を付き手を合わせ、静かに瞼を閉じればお供えしたアデニュームという花が風に揺れる。
 墓参りには不釣合の花だと知りながらも、砂漠で育つ花がよかったのだ。


「ここに居たのかい」
 背後から聞こえた声にゆっくりと瞼を開けて立ち上がる。
「お久しぶりです、テマリさん」
 くるりと振り向いてお辞儀をするサクラに隣に立ち、今しがたサクラが手を合わせていた墓石を見る。
「チヨバア様か」
「はい」
 こくりと頷き返事をする。ほんの少しだけ寂しそうな表情をしたサクラを一瞥した。

 テマリは不思議に思う。
 たった数日。本当にほんの数日しか一緒に居なかったはずなのに。
目の前に立つ少女は毎年毎年この時期になると木の葉の里からわざわざ来るのだ。
 情が深い少女に、ただただ感服した。

「チヨバア様は……」
 口ごもるテマリに少し不思議に思い「どうされました?」と声を掛ける。
「里の未来とか、他人とかどうでもいいと言われていた。正直あの日、あの時どんなことがあって、
どんな会話をしたとか詳しく知らない。だけどアンタ達に出逢って変わられたんだと思う」
 チヨと書かれた墓石に触れながらぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出すテマリ。
 その後姿を見てたサクラは心臓の辺りで両手を握り締めた。

「変わられたんじゃないと思います」
「え」
 サクラの言葉にゆっくりと振り向くテマリ。
にこりと笑ったサクラの表情は、すごく優しかった。

「私は、砂の里が、テマリさん達が……チヨバア様がどんな事を考えて歩んできたか知りません。
でも、優しくも厳しい方だった。あの時、チヨバア様が居なければ私も我愛羅君も死んでいた」
「ただ、家族を、家族を護りたかっただけだと思います。優しい方でした。
覚悟を持たれた方でした。自分のお孫さんの命を自らの手で終わらせる事にどれだけ心を痛めたか。
私には想像することしかできません。きっと、最初から持っていた強さだと、思います」

 私の勝手な想像ですよ? ともう一度微笑むサクラに「そうか」と短く言葉を返す。

 ビュウウと一瞬風が強くなる。
 風と共に現れた気配にサクラとテマリ顔を向けた。

「テマリ、何をしている」
「マツリが探してたぞ、あ、サクラじゃん」
 そこに居たのは風影である我愛羅とカンクロウの二人。

「お久しぶりです」
 ぺこりとお辞儀をするサクラに「元気そうじゃん」と笑うカンクロウ。
「はい、お二人とも元気そうで」
 そう笑うサクラを一度見、テマリに視線を向ける我愛羅。

「そうだ、忘れてたよ。マツリに稽古つけてやるって言ってたんだ」
 すっかり頭の中から消えていた約束事を思い出して眉を吊り上げたテマリは墓石から手を離した。
「ほら、カンクロウも行くよ!」
「え、オレ関係ないじゃん」
「いいから!」
 声を張るテマリにビクリと怯えずんずんと里に向かって歩いていく後姿を慌てて追いかけるカンクロウ。
ピタリと立ち止まり振り向いたテマリはニッと笑った。
「サクラありがとな! あとでまた会おう」
「はい!」

 歩いていく後姿に手を振るサクラは笑っていた。



「……墓参りか」
 いつの間にかサクラの隣に立っていた我愛羅はポツリと呟くように問う。
「うん」
 自らより背の高い我愛羅を見上げ、サクラは柔らかく笑う。

「毎年毎年、ご苦労だな」
「そうでもないわよ。こんな時じゃないと休み取れないし。それにチヨバア様に報告することがたくさんあったし」
「そうか……いつまで居るんだ」
 テマリとカンクロウが走っていった方向をじっと見つめながらサクラに問いかける。

「明日まで。明後日の朝里に帰るわ。無理言って休みをもらったしね」
 サクラの言葉に一度瞬きをして歩き出す。
「行くぞ。時間はあまりない」
「はーい」
 スタスタと足を進める我愛羅の後姿ににこりと笑い、チヨバアの墓石に別れを告げる。


 チヨバア様、また来年必ず来ます。


 それは誓いと決意。
 気持ちを新たに大きく深呼吸をした。

「我愛羅君、私カレーが食べたい」
「……旨い所を知っている」


 アデニュームの花が揺れた気がした。




砂漠のバラ




「そんなに焦って行くことないじゃん。我愛羅とサクラも連れて行けばよかったじゃないのか」
 目の前をずんずんと歩いていく姉はピタリと足を止めグググと振り返った。
「偶にしか会えないんだ。二人っきりにしてあげな。ったく、これだからモテないんだよ」
「ぐっ……そんな言わなくていいじゃん」
 見かけによらず意外とデリケートだった弟はガクリと項垂れながら姉の後を追いかけていた。