※我愛羅とサクラの子供
 長男=琉珂(ルカ) 長女=沙羅(サラ)
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 思いの外、彼が子供が好きなのを知ったのはそれはお付き合いというのをしだしてから。どちらかと言うと、子供の頃自分が父親と一緒に過ごせなかったのが要因なんだろうけれども。

 そんな彼は、毎年この時期になるとソワソワし出すのだ。


「母上様、父上様にプレゼントこれにしようと思うんだけど、いいかな?」

 夕飯の準備も済ませ、和室で洗濯物を畳んでいたサクラの元に姿を見せたのは、もう八歳になる息子の琉珂。手にはくしゃりとなった紙の束が存在する。一体なんだろうかと受け取れば、それは可愛らしいイラストと"かたたたきけん"とひらがなで書かれていた。多分、このイラストの狸は守鶴だな、とサクラは思う。


「沙羅が描いたんだよ、この絵も字も」

 残念なことに、琉珂はサクラに似て絵のセンスはそこまで開花されなかった。琉珂がまだ小さな頃に描いた我愛羅とサクラの似顔絵はなんとも抜群のセンスで描かれていた。
我愛羅がいまだにそれを大事に持っているのをサクラは知っているが、琉珂には内緒にしているのだ。

(知ったら、捨ててよ! って言うのが目に見えるからね)

 ふふっと思わず笑えば首を傾げた琉珂の頭を優しく撫で「お父様喜ぶと思うわよ」と言えば嬉しそうに、にぱりと笑う。

「あと、もうひとつあるんだよ」
「もうひとつ?」

 はて? 子供たちが他に準備できるものなどあっただろうかと今度はサクラが首を傾げる。今年は自分達で準備をする! と張り切っていたので正直なにを準備したのかが不明だ。

「うーん、サボテン?」
「違うよ! だって父上様いっぱい持ってるし……」

 確かに。数え切れ無い程のサボテンに花が咲き、今や温室を埋め尽くしている。では、なんだろうかと考え「お酒?」と言っては見たが琉珂は首を振って「違うよ」と笑う。

「あのね! おかあさま、おとうさまにはね……!」
「あ、馬鹿!」

 琉珂にタックルをするように、ボテボテと走ってきたのはやっときたのは娘の沙羅。二人だけの秘密なのか、何か言おうとした沙羅の口元を、琉珂がぱちんと少し乱暴に押さえた。

「あらー、なあに? 二人だけの秘密なんだー」
 おかあさんには教えてくれないの? と聞いてみれば「後でわかるよ!」と言いながら琉珂が沙羅の腕を引っ張って和室を走って出て行ってしまった。

 和室に残されたサクラは、子供達の嬉しそうな姿に微笑みながら残りの洗濯物を畳む為に、洗濯物の山に手を伸ばした。



 ***


 帰宅して早々子供達に抱きつかれ、そのまま風呂場へと二人を連れて行った我愛羅にお疲れ様の意味も込めて少しだけ、夕飯を豪勢にし「うん。いいでき!」とサクラは自画自賛をした。

「戻った」
「あ、おつかれ」

 風呂場から出てきた三人はほかほかと体から湯気を出し、寝間着に着替えていた。
沙羅を抱きかかえ、琉珂の手を引いて我愛羅はリビングのソファへと向かう。二人を座らせ、ドライヤーを取り出した。

「あ、僕が沙羅の髪を乾かす!」

 我愛羅に腕を伸ばし、ドライヤーを奪い取ろうとする琉珂に「意外と難しいぞ」と言いながらも琉珂の小さな手にドライヤーを持たせ、危なくないよう温風を緩くし沙羅の後頭部に風を当てていく。
それが気持ちよかったのか、沙羅は、くあっ。と大きな欠伸をし、目元を何度も擦っている。

 仕事で疲れただろうに、悪いな。とサクラは一瞬思ったが、我愛羅の顔を見れば子供達と一緒に何かをすることが、至極嬉しそうなので「まあ、本人が楽しかったら良いか」と瞬きをした。


 琉珂と沙羅の髪の毛を乾かして、さあ、ご飯を食べようか。サクラが声を掛ければ、「待って!」と琉珂と沙羅が自室へと走っていく。

「今年はなにをしてくれるのかしらね」
「実は凄く楽しみでな」

 ソファに座ったままの我愛羅に、背後からサクラは話しかけ背凭れに肘を置いた。

「サクラ、お前からはないのか?」
「後で晩酌に付き合うわよ」

 サクラの柔らかな頬に唇を落として「晩酌だけか」と我愛羅が問えば「晩酌だけですね」と言いながら我愛羅の唇を抓んだ。

「お待たせー! 僕と沙羅からだよ」
「あのね、がんばったの」

 いつもありがとう、おつかれさまと言われながら我愛羅は、手作りの肩叩き券とは別に綺麗にラッピングされた小さな袋を受け取った。
「開けていいのか?」
「うん!」

 念のため許可を取れば、今すぐ開けてと期待を込めた眼差しで見られ我愛羅は少しばかり緊張する。
手のひら大の袋。何が入っているのだろうかと思いテープを丁寧に剥いでいく。

 中から出てきたものは、少し歪だが模られたものが何かがはっきりとわかり、我愛羅は思わず口元を緩めた。

「あー、かわいいー!」

 思わず声を上げたサクラに、琉珂と沙羅は嬉しくなり笑う。我愛羅がソファの前のテーブルに袋から出したものを並べれば、琉珂が一生懸命に説明をしだした。

「えっとね、これね、キーホルダーなんだ! これはお母様とお父様で、こっちが僕と沙羅でこれはね、守鶴なんだよ」
「ああ、わかるさ」

 琉珂の頭をすこし乱暴に撫でれば、へへへと笑い、それを見ていた沙羅が自分も撫でてほしそうに我愛羅の胸に頭突きをした。

「どうやって作ったの?」
 大方予想はついたが、二人の視線が聞いてほしそうに我愛羅とサクラを見るものだから、サクラは会話を広げる。
「カンクロウ伯父さんとテマリさんと一緒に作ってもらったんだ。この絵はね沙羅が描いたんだよ、それでね! それでね!」

 少し興奮気味で、身振り手振りで説明をする琉珂に我愛羅とサクラは顔を見合わせて笑い合う。

「嬉しい?」

 キラキラと輝く瞳。我愛羅は子供達二人を抱き抱え「ああ、嬉しいさ」と優しく二人の背中を撫でた。
そんな中、ぐぅ。と聞こえたのは腹の虫。感動なんて二歳の沙羅には関係ない。眉を下げおなか減った。と訴える沙羅に「今度こそ、ご飯にしようか」とサクラは笑う。


 テーブルに並べている五つのキーホルダーに目元を細め我愛羅はただ、微笑んだ。



2015.06.20.少し早めの父の日
感謝の言葉はたりなくて、