たまの休日。
鼻を擽る香りに誘われ足を運べばカンターによく見る顔を見て手を上げる。

「あら、サクラじゃない。どうしたの?」
「んー、今日から休みだから一緒にお昼でも食べに行かないかなーって思って」

 にこりと笑うったサクラにいのはコクリと頷いた。
「いいわよ、もう少しで休憩入るからそれまで適当にくつろいでてよ」
「はーい」

 山中花店の看板娘であるいのの言葉にサクラはゆるりと返事をして飾られている花々をニコニコと眺めていく。
「それにしても大変よね。任務がないときは店の手伝いして……」
「まぁね、もう慣れたもの。それよりも花の事が気になって任務に集中できない時もあるし……」
「なにそれ、危ないわよ」
 花の茎を鋏でパチン、パチンと切り落とし、シュルリと取り出したペーパーに見栄えよく乗せれば手際よく花束を作っていく。
それを横目で見ていたサクラは、相変わらず器用だなぁと感慨深く見れば視線が上がったいのが首を傾げながらリボンで結んでいく。

「どうしたの? 何かあった、いい花」
「え、あー……えっとね……」
 いのの手の動きに、いいなぁ。いのみたいに器用に女の子らしい事が出来たらなぁ。と思っていたサクラは突然の言葉に視線をキョロリとさ迷わせる。


「あ、なにこれ? 真っ黒……」
 花を保存する大きな冷蔵庫のようなガラスの中、隅に飾られた花にサクラは思わず目を奪われた。
「ん? ああそれね!」
 いのがエプロンで手を拭きながらガラスケースを開ける。
 取り出されたのは一本の真っ黒い薔薇。

「凄い、真っ黒じゃない」
「そうなのよ〜! 珍しいのよ!」
 にこやかに笑ういのとは裏腹に真っ黒い薔薇だなんて不吉だなぁと思っていたサクラは少し眉を下げ笑う。

「でも黒い薔薇なんて、ちょっと不吉じゃない?」
「そう思うでしょ、花言葉もね『憎しみ』とか『恨み』とか何だけどね」
 その言葉に、やっぱりそうじゃないか。思い眉を下げたサクラを見て、ふふふといのは笑った。

「もう一つあるのよ」
「もう一つ?」
 出し惜しみするようないのに目で催促する。


「そう、『貴方はあくまで私のモノ』っていう意味よ」
 
 ぱちぱちと瞬きをしてサクラはいのが持っている黒い薔薇を見やる。
「へぇー……そんな意味があるのね」
 あくまで冷静に。そう装っていたサクラだがいのの瞳がすっと細くなりにやりと笑う。

「今誰の事思い浮かべたー?」
「いや……別に」
 詰め寄るいのに両掌顔の前に出し、顔を逸らして視線を泳がせる。
そんなサクラを見て更に、ふふふーんといのは笑う。

「いいーんじゃない、偶には欲出しても」
「う……」

 いのの言葉に頭の中で思い浮かべた人物を振り払うように首を振る。
「だって……」
「あー、もう! いいのよ!! 相手はどうせ花言葉の意味なんてわかんないでしょ! 魔よけにどうぞって渡せばいいのよ」
 口篭るサクラはいのの言葉に、そうね。たまにはね。と呟いた。



「はいー、毎度〜」
「なんだか上手く乗せられた気がするわ……」
 お金を払うサクラは少しだけ口を尖らせた。
「何言ってんのよ! このいのちゃんに作って貰えるのよ、ありがたく思いなさい!」
「……はーい」
 やりぃと呟くいのにうまい事乗せられたような気もするが、偶にはいいかと再度自分を納得させた。





 ***



 茹だる様な暑さは何時来ても慣れないな。だけど慣れたいな。
そんな事をぼんやり思いながら舞う砂埃に少しだけ咳をした。

「サクラ」

 砂が舞い目の前に現れた人物に視線を向け、にこりと笑い名前を呼ぶ。

「我愛羅君!」
「態々すまない。今回医療忍者の……」
「我愛羅君これ!!」

 里入り口で出迎えてくれた我愛羅の言葉を遮ったサクラは我愛羅の胸に綺麗にラッピングされた袋を押し付けた。
 目を丸くして驚いた我愛羅が思わず受け取れば少しだけ下を向く。
 そろりとサクラの顔を覗き込めば、今にも倒れるのではないかと言うほど真っ赤な顔をしていた事に我愛羅は驚いた。

「お、おい……」
「それ! 魔除けだから!! 魔除けだから部屋にでも飾って!!」

 わあああ! と叫びながら走り抜けるサクラの背を呆然と見ていた我愛羅は手元の袋に視線を落とした。

 可愛らしい花の模様の入った袋。
カサリと開け中身を見れば一輪の黒い花。
透明なドーム型のケースに収められたそれは枯れぬように加工してあるようで、黒い花が際立つように白い小さな造花が周りを彩っていた。


「……黒薔薇……」
 ぽつりと呟いた我愛羅は手の甲で思わず口元を押さえた。
加工された花を袋にもう一度仕舞おうとした際にカサリと何かが当たる。
 ケースのそこに付けられていた小さなカード。

 山中花店。
 そう書かれたカードに記載してある内容を目で追った後、思わず顔を空に向け我愛羅は目元を押さえた。


 黒い薔薇の花言葉。
『恨み』
『憎しみ』

『貴方はあくまで私のモノ』



「知っている……」
 何が魔除けだ、馬鹿者め。
ふっと、口元を緩ませて笑う我愛羅に、珍しいと里の者は遠目から眺めていた。

「とりあえず、サクラを追いかけるか」
 サクラが走り去った方向を見て、我愛羅は砂を舞わせて追いかける。


 少しだけ見せた、サクラの独占欲に我愛羅は目元を緩ませた。



黒染めの薔薇
2014.07.19