「サクラさんに治療してもらったんだぜ」
「マジカ! でも俺はサクラさんに頑張ってくださいねと言われた事あるぜ」
「なーに言ってんのよ、ただの建前でしょ。私なんて顔色悪いけど大丈夫?っておでこ触ってもらっちゃった!」
「ずりーぞ、お前!」
「ただの仮病だろうが!」
執務室の入り口付近で聞こえる話し声にふるふると手を震わせ握り拳でガンッ!! と机を殴りつけた音にテマリは首だけを向け苦笑いをする。
「我愛羅、顔」
「……煩い」
眉間にぎゅっと皺を寄せている我愛羅にテマリは肩を竦める。
「……サクラに会いたい」
ガクリと項垂れ頬と机をぺたりと引っ付け我愛羅はボソリと思いの丈をつぶやいた。
「無理だな。いくら今砂に居るとは言えお前とサクラの空き時間が合わん。今回は諦めろ」
「……無慈悲だ」
「あのなぁ……大体お前達二人だろう。落ち着くまで公言しないと決めたのは。サクラは我慢してるぞ」
執務室の本棚から本を手に取りその場でぺらぺらと捲りながらテマリは我愛羅を諭す。
「くそっ、そんな事言わなければよかった」
「……まー、我愛羅の気持ちも分からんでは無いがな。こう毎日のようにサクラの話題を聞けばな」
サクラが砂に派遣され早三週間。
砂に着いた当日言葉を交わしたきり我愛羅はサクラの姿を見る事はなく、またサクラも我愛羅の姿を見ては居ない。
しかし、執務室に報告に来る忍達は任務帰りに病院に寄って来る事もあるわけで、そこで木の葉から派遣されたサクラに治療される事も多々あると言うのだ。
自分は会えぬと言うのになぜこうも他の者は容易く会えると言うのだ。
サクラに会えぬ代わりに手元にやってくるのは報告書と始末書の山とストレスだけ。
うぐぐぐと歯を食いしばり筆を握り締める我愛羅にテマリは眉を下げ笑うしかなかった。
「我愛羅ー入るぞー」
ノックもなしにガチャリと扉を開けたのはカンクロウ。
よう、と報告書片手に腕を挙げたカンクロウは机の上に山積みになっている報告書の上に今し方自分が持ってきた報告書を重ねた。
「帰ってきたのか」
「ああ、さっきな。今回も疲れたじゃん」
肩を回し首をバキバキと動かしながらカンクロウはテマリの問いに答え、あ。と思い出したように顔を上げた。
「サクラ来てるんだな」
「ん? ああ」
そうだな。とテマリは言おうとしたが我愛羅の肩がピクリと動いたのを見逃さなかった。
「久々サクラ見たけどさーすげー綺麗になってんじゃん。さっきそこいらの忍達が噂しててよ」
「そ、そうだな」
カンクロウがくるりと振り返り、テマリを見ながら言葉を続ける。
「そう言えばさっき盛大に告白されてたぜ」
「それは……」
「本当か」
テマリの言葉を遮り我愛羅はゆらりと立ち上がる。
カンクロウは「ああ、そうだぜ」と言いながら振り返り、ヒクリと口元を引き攣らせた。
「テマリ……出てくる。今日は戻らん」
「あ、ああ! ああ、そうだな!! こっちは任せておけ!」
カンクロウの首根っこを掴みテマリがコクコクと頷けば我愛羅は砂塵と共に消えてしまった。
「馬鹿か!」
「何がじゃん!」
テマリに罵られカンクロウは理不尽じゃん! と叫びガクリと肩を落とした。
「ありがとうございましたー!」
「はーい、気をつけて帰るのよー」
ぶんぶんと大きく手を振る小さな子供に同じように大きく手を振れば親御さんがペコリと頭を下げる。
それを見てにこりと笑いうん! と頷いたサクラは振っていた手を下ろし腰に手を当てた。
病院の入り口で穏やかな夕焼けが砂隠れを紅く染めていく。
「さーて、今日ももう終わりだし……後は宿に帰るだけ」
うーんと伸びをして振り返ったサクラは思わず「ぎゃあ!」と声をあげた。
「随分と楽しそうだな」
「が、が、我愛羅君!! びっくりするじゃない!」
一歩後ずさるサクラの手首を掴んだ我愛羅は鋭い瞳でサクラを見下ろした。
「にこにこ、にこにこ笑顔を振り撒きおって……」
「はい?」
目の前の男がなぜか分からぬが凄く怒っているのを理解しサクラは下から覗き込んだ。
「我愛羅君?」
どうしたのよ。そう問いかけるサクラに我愛羅は眉間に皺を寄せ背中と膝裏にするりと腕を伸ばしサクラを抱き抱えた。
「わっ! ちょっと、不味いって!」
サクラの叫びは無視をしてサクラを抱き抱えたまま我愛羅は屋根を伝い駈け出した。
「いい。多少は牽制になるだろう」
「はい!? 何が? 何の!?」
地上に砂隠れの人達が多く居る。サクラは見られぬように慌てて我愛羅の胸に顔を埋めた。
「どうした?」
「顔を見られちゃまずいでしょう!」
まだ二人の仲は公にしていないのだ。そう説明したサクラだったが我愛羅はクスリと笑う。
今、この里でその髪の色を持つのはサクラだけなんだがなと思ったが敢えて何も言わなかった。
「早く嫁に来い」
「皆を説得できたらね」
くすくすと笑うサクラに、今度木の葉に出向こうと心に誓う。
「とりあえず、俺の家に帰るぞ」
「え、仕事は……」
「……明日の俺に任せる」
黒く目を伏せた我愛羅にサクラはぎゅっとしがみ付く。
「じゃあ、いっぱい甘えちゃおうかなー」
「……ああ、是非そうしてくれ」
夕暮れ時。
笑い合う二人を目撃した者は多かった。
嫉妬の塊
2014.08.31