学パロ
ミンミン、じわじわ
此処に居るのだと存在を主張する鳴き声が茹だるような暑さに拍車をかける。
だが、そんな暑さとは裏腹に心は軽やかでこれからの一ヶ月に皆どうしようかと弾む声が其処彼処から聞こえる。
「サクラー、来週皆で海に行くことなんだけどー」
「あ、いの」
終業式。
さっさと帰れよーと言って先生が教室を出れば、これからさあ、夏休みだ! とわいわい騒ぐ教室。
帰り支度をするサクラの前に現れたいのにサクラは顔を上げる。
「明日水着買いに行かない?」
「あ、いいじゃんー! じゃぁヒナタとテンテンさんも誘おうよ」
「ウチも混ぜろ!!」
「あ、香燐!」
いのとサクラの話を割って入った香燐にはいはいと言いながらも「明日何時がいい?」と聞くいのに面倒見がいいなぁとサクラはくすりと笑う。
「サクラの水着はウチが選んでやる」
「えー……いいわよ。香燐が選ぶと派手すぎるもの」
「何言ってんだ! 男を落とせるセクシーな水着にしてやるよ!」
「ダメよ香燐。そんなことするとサクラの彼氏が怒るもの」
「かっー! ソレぐらいで怒るなんてなー!」
天井を見上げ、右手で額を押さえる香燐にサクラはあははと苦笑いをする。
いのが言う事が一概に間違えていないのでなんとも言えないがセクシーなのは置いといて可愛い水着がいいなぁと言えば香燐が任せろ! と歯を見せて笑う。
「サクラの彼氏が鼻血出すようなの選んでやるよ」
「……多分出さないと思うわ」
サクラの鼻をツンと突きニヤリと笑う香燐にサクラは先ほどから話題に上がっている彼氏の仏頂面を思い出した。
ほんの少し頬を染めるサクラにいのが「はいはい、ごちそうさま」と言えば香燐と共に笑う。
「な、なによ……」
「あー! お前はほんとなー!!」
突然ぎゅむっと抱きつかれたサクラは、わっ! と声を上げた。
座ったままのサクラの椅子がガタリと音を立てる。
「……何をしている」
ガシリと後頭部を掴まれた感覚にサクラは香燐に抱きつかれたまま視線だけで上を見れば目元を細めた我愛羅が居た。
「あーん。心の狭い野郎だ―−もがっ!」
「ゴメンねー我愛羅君! ほら、サクラ連れて行っていいから!」
香燐が我愛羅に喧嘩を売るような発言をしたところでいのが香燐の口を背後から押さえれば、口を引きつらせてあははと笑う。
サクラの頭に手を乗せていた我愛羅の眉間に皺が寄っていたのをサクラは見逃さなかった。
「が、我愛羅君! 帰りましょう!」
椅子に座ったままのサクラが我愛羅を見上げればコクリと頷いた我愛羅はサクラの手首を掴み、いのを見る。
「山中」
「はい!」
「明日……そいつにサクラの水着を選ばせるな」
「わ、わかったわ!」
コクコクと頷くいのの横で香燐はずれた眼鏡をくいっと持ち上げた。
「行くぞ」
「あ、うん。ごめんねー後でメールするから!」
まるで引きずられる様に腕を引かれながら教室を出て行くサクラにいのは「わかったわー」と返事をすれば
その隣で香燐がベーと我愛羅に対して舌を出していた。
「心の狭い奴!」
「いい加減にしなさい!」
「へーい」
ぴしゃりといのに叱られ気のない返事をする香燐に残っていたクラスメイトは笑っていた。
「もー、我愛羅君ったら。香燐のは冗談じゃない」
「アイツの言葉は冗談に聞こえん」
ガチャンと自転車の鍵を開け、人の疎らな駐輪場でサクラは自転車を出しながら我愛羅に言えば、ふいっと顔を背けてしまった我愛羅に小さく溜息を吐く。
チリチリチリチリと自転車のタイヤが回る音。
ミンミンと聞こえる蝉の鳴き声。
焼けるような太陽の陽の光にじわりと額から汗が出る。
「じゃぁ、我愛羅君も明日一緒に来る?」
女しか居ないけどね。とサクラが笑えばぎゅっと困った顔をして「遠慮する……」と小さく返す。
「山中になんと言われるか……」
「あはは! 確かに。我愛羅君過保護すぎ〜! って笑われるのは間違いないわね!」
カラカラと笑うサクラに我愛羅はむうと唇を少し引く。
「ほら! 乗って!」
学校の正門から出て少し歩いた所で自転車に跨り後ろをバンバンと叩くサクラに我愛羅は瞬きをする。
「お前は……たまに男らしいな……」
「なーに、それ! 褒め言葉として受け取っておくわ!」
あははと笑いながら籠に鞄を二つ放り込んでサクラはペダルに足を足を掛ける。
こうなると我愛羅が後ろに乗らないと自転車で追いかけられた挙句自転車のタイヤでガンガンぶつけられるのが目に見えているので少し大きめに溜息を吐き我愛羅は、よいしょとサクラの後ろに座る。
さらりと流れる薄紅色の髪と少しばかり汗ばんだうなじ。
白いシャツにサクラの髪がよく映えていた。
細い。
掴んだ腰の細さにちゃんと食べているのかと我愛羅はそろりと視線をあげる。
サクラの表情は見えなかったが何故だかとても嬉しそうだった。
そんなサクラを見てにやりと笑う我愛羅は地面に着いていた両足にぐっと力を入れる。
「うぐぐぐっ……!!」
唸るように声を上げサクラがペダルを漕ぐが自転車が重く思うように進まない。
腰を掴んでいるだけだった我愛羅の両腕が抱き抱えるように腹の辺りに回される。
「ちょっと! 我愛羅君!」
「んー?」
サクラの背中に顔を埋めている我愛羅の間延びした声。
「ちょっと、動かないんだけど!」
「なんだ、もう終わりか」
「なんですって!!」
キーと声を上げるサクラだが微動だにしないことに、ゼィゼィと息を上げる。
「ほら、代われ」
「ううう……」
我愛羅に言われ渋々自転車から降り、我愛羅と代わる。
「馬鹿! 我愛羅君の馬鹿!」
「叩くな、叩くな」
サドルに跨る我愛羅の背中をバシバシ叩きながらもサクラは自転車の後ろに腰を下ろす。
サクラが捕まるのを確認すればペダルを一度漕げば進まなかった自転車が坂道をぐんぐん進んでいく。
自転車のスピードが思いの他速かったのでサクラは腕に力を込め、ぐっと我愛羅の腰にしがみ付き
先ほど我愛羅にされたように背中に顔を埋めてみた。
鼻を擽る我愛羅の匂いとほんの少しの汗のにおい。
「うふふ」
「なんだ……気持ちが悪い」
「あ、失礼しちゃうわねー!」
そう言いながらも我愛羅の背中に額をぐいぐい押し付けるサクラの声色は明るい。
にこやかに笑うサクラに少しだけ自転車を漕ぐスピードを緩めた我愛羅は笑う。
「明日から夏休みだな」
「うん! 明日はいの達と買い物い行くから!」
「ああ、知ってる」
「いっぱい遊んでいっぱい楽しみましょうね!」
カラリと笑うサクラにコクリと頷き、我愛羅は「あ」と声を上げる。
「水着は……派手じゃないのにしろ」
「心配性ね〜! 分かってるって!」
あははははと笑うサクラの声。
ミンミンじわじわ鳴く蝉達の声。
キラリと輝く太陽に真っ青な空に、真っ白な入道雲がこれからの夏休みを期待させるのに十分だった。
2014.08.02
夏、これから。
※自転車の二人乗りは危険です。