体の芯まで凍らせてしまいそうな空気に我愛羅が真っ白な息を吐けば四散する。
砂漠の夜も寒いが、雪の国の寒さに肩を震わす。
「あはは、我愛羅くん鼻真っ赤よ」
数歩先を歩いていたサクラが、笑いながら振り返る。
足元に積もった雪をさくさくと踏む音を立て、ゆっくりと我愛羅の前に立つサクラをただ目で追う。
「お前も人の事が言えんぐらい真っ赤だぞ」
ぎゅっとサクラの鼻を軽くつまめば、ぎゃ! と声を上げ顔を顰めた。
二人の間にシンシンと降り続ける雪はとても冷たかったが、とても穏やかだった。
「なんで、雪の国がよかったんだ」
人通りの少ない並木道。
あたり一面銀世界と化したのは人通りの少ない公園。
互いに手袋をしていない手を結んでゆっくりと歩いていく。
伝わる熱が、心地良い。
「んー……だってここなら知り合いも少ないだろうし……」
ほら、我愛羅くん有名じゃない。
ぽつりと呟くサクラの口元から真っ白な息が吐き出される。
頬が紅く染まったのは、多分寒さのせいではないだろう。
「誰も知らない所に、二人で出かけたかったの、よ……」
うろうろと視線を彷徨わせた後、地面を見つめるサクラの表情は見えなかったがさらりと流れた
艶やかな髪の間から見えた真っ赤に染まる耳。
思わずカプリと噛み付いた。
「ぎゃああ!!」
何すんのよ!! と人気のない公園でサクラの声が辺りに響く。
繋いでいた手をぶんぶんと上下に振るサクラに、我愛羅は思わずくしゃりと笑う。
「そんなに、俺が好きか」
「んな!」
繋いだままの手のひらから分かるぐらい上昇するサクラの体温。
少しだけ、からかう様に紡いだ我愛羅の言葉に、馬鹿! 好きに決まってるじゃない! と大きな声で叫んで我愛羅の胸に飛びついた。
「サクラ」
「……なによ」
ぎゅっとしがみ付いたサクラを見下ろせば見えるのはつむじ。
サクラの細い身体を抱きしめて我愛羅はサクラのつむじに顎を乗せる。
「歩けないんだが」
「からかうからよ」
更にぎゅうううとしがみ付くようなサクラに我愛羅はやれやれと溜息を吐く。
サクラ、ともう一度名を呼べば渋々顔をあげたサクラの頬に唇を落とす。
ひやりとした頬が柔らかくて気持ちいい。
「時間はある、ゆっくりとしていこう」
目元を柔らかく細めた我愛羅の言葉に、サクラは声も無くコクコクと頷いた。
音も無く降り続ける雪の中、繋いだ指先が燃えるほどに熱かった。
新婚旅行にきた二人の話。
14.11.30