春の話



 あ、と声を上げ窓の外を見ればひらりと舞う桜の花弁。
窓を開け放てば、まだ少しだけ冷たさの残る風が頬を緩やかに撫でてく。

「もう桜が咲いてるのね、今度皆でお花見行かなきゃ!」
 にこりと笑い、窓辺に膝を付き頬杖をする。
ガサリ、と聞こえた木々の葉が揺れる音。
サクラは猫だろう。と思い、里内を舞う桜の花弁を眺めていた。

「随分と機嫌がよさそうだな」
「ぎゃあああ!!」

 どからともなく聞こえた声。
心臓が口から出るのではないかと思うほど驚いたサクラは思わず叫び声を上げる。

「が、我愛羅くん!? どうして木の葉に……!」

 声の主を見るために顔を上げれば、一人暮らしのアパートに隣接する、
青々と茂った大きな木に逆さになり、サクラを見つめていた我愛羅の姿があった。

「春の木の葉が如何ほどのものか視察にきたんだ」
「そ、そう」
 一体いつからそこに居たのか。少し考えたが目の前の我愛羅の考えなど分かるはずもなく、頭を切り替えようとサクラは首を振る。
 
「そうだ、我愛羅くん! 春お勧めスポットがあるんだけど行って見ない?」
 未だ木に逆さになっている我愛羅に問えば、二度瞬きをした我愛羅が静かに笑った。

「そんなものがあるのか、出来れば連れて行ってもらいたいな」
「ふふ、分かったわ! じゃあ急いで用意するから下で待ってて!」
「わかった、待ってるぞ」

 窓から乗り出していた身体を室内に引っ込めたサクラを確認し、我愛羅は地上に降りる。
風がふわりと舞い、桜の花弁が鼻先を掠めていく。

「……デートか」

 ぽつりと呟いた自分の言葉に、我愛羅は目を伏せ少しだけ目元を押さえた。
足音を立てアパートの階段を降りてくるサクラに、心が楽しみにしている。

「お待たせ!」
「そうでもない」


 気がつかぬうちに、我愛羅は穏やかに笑っていた。

 花弁がひらひら舞っている。



2015.03.07
春の日差し