我サクシリーズ・結婚編。(いの視点)


 春。麗らかな季節。
砂塵も少ない穏やかな日。まるで祝福をするかのように太陽は一段と輝く。

 多忙な合間を縫って、秘かに秘かに育ててきた想いは今日という日を随分と待ちわびていたのであろう。
普段から表情一つ変えない男も、見た目には分からないが嬉しそうに見えたのだ。

「う、うううー、サ、サクラちゃんー!綺麗だってばよー!」
「ナルト、何でアンタが泣いてんのよ……」
 当人達の希望は小規模で行いたい。そう言っていたのをいのは思い出した。

「馬子にも衣装っていうんですかね。これって」
「サイ、サクラが聞くと殴られるだけじゃ済まないよ」
「うーん、確かに綺麗だね。先生も泣けちゃうなー。そう思うだろサスケ」
「……ふん」
 ひそひそと話す元7班のメンバー。
 元7班横のテーブルでカメラのファインダーから、今まで見てきたどの花嫁より綺麗だと思う親友をフレームに収める。

 恋の悩みを相談され、結婚する事を実は誰よりも早く聞いたのは親友の特権だ。 

 そんな事を考えながら、心の底から笑うサクラをパシャリと写した。

「いい写真取れた」
「うーサクラちゃーん!」
 隣のナルトに今し方取れた写真を見せるとその写真を見ながら更に号泣してしまった。
これを機に木の葉と砂は更に強固な絆で結ばれればいいといのは願う。

「それにしても、さすが風影の結婚よね。五影が集まるなんて」
「まー、これも戦争で協力したお陰じゃねーの?」
 いのの横に座るシカマルはお酒を飲みながら、チョウジは次々出てくる砂隠れの高級料理を口にしていた。

「でも、本当にこれでサクラは砂に行っちゃうのよね」
 その言葉にほんの少しだけ寂しさを覚えたナルト達。
 少しずつ、大人になって、皆違う道を歩んでいるのだと思い知る。

「サクラー、綺麗だぞ!」
「つ、綱手様!」
 聞こえた声に顔を向けるとべろべろに酔っ払っている現火影の姿。
そして火影を押さえ込もうとしている火影の付き人であり、サクラの姉弟子のシズネがいた。

 あの子が幸せそうに笑っている。

 ただ、それだけでいのは目頭が熱くなるのを理解する。
どれだけあの子は辛い道を歩いてきたのだろうか。
傍から見れば7班という危うい班に所属して、一人必死にもがいていたのを知っている。
うちは一族と四代目火影の息子。そして木の葉一の忍。
その間で必死に前を向いて。前だけ向いていつか壊れてしまうんじゃないかと思っていた。
いつか、あの子を支えてくれる人が現れたらいいのだけれど。
そう思っていたらいつの間にかあの子の心にストンと落ちていたのは思いもよらない人物だった。

 まさか、あの我愛羅と結婚する事になるとは。
初めて相談を持ちかけられたとき、思わず持っていたマグカップを落として割った記憶は鮮明に覚えている。

 まあ、なんにしても笑っているならいいけれど。

 カメラのファインダーに夫婦を収めれば、翡翠色がこちらを見ているような気がした。

「ん?」
 顔を上げ夫婦を見れば、笑いながらこちらに向かってピースをしているではないか。
にーっと歯を見せながら笑うサクラの横に、対照的な我愛羅の顔。
果たしてどんな感情なのだろうかと疑問に思うも、サクラに手を引かれ大人しく従っている我愛羅の姿。
上手くやっていけてるのだろう。

 にやりと笑い、シャッターを押せばそこには誰よりも美しい花嫁が写りこんでいた。

「これは、後で焼き増し決定ね」


 春。
麗らかな季節。
幸せそうな二人を、太陽が祝福した。


H25.10.27