まるで歌でも奏でるような声。
廊下を歩いていれば聞こえた声に少しだけ耳を傾ける。

「では、考えるよりも実践と言うことで。物は試しにやってみましょう」

 その声は、砂隠れの見習い医療忍者に実践練習を促す、サクラの自信に満ちた声だった。



 くあーっと大きな欠伸を一つ。
砂隠れの穴場である甘味処で休憩と称し、バニラアイスを口に運んだ所で目の前に影が落ちる。
視線を上げれば、にこやかに笑うサクラが居た。

「珍しいですね、アイス食べてるの」
「こう暑いとやる気がでねぇじゃん……」

 生まれた土地とは言え、茹だるような暑さにめげそうになる時もある。
そんなときは気晴らしに涼しい店内で甘味を食べるのが至福の時でもあったりするのだ。

「カンクロウさんでもやっぱりそう思うんですね。私も今日はちょっと暑いというか、焦げそうで……あ、すみません、ソーダアイス下さい」

 目の前の席に座り、通りかかった店員に注文をするサクラに「講義は終わったのか」と質問する。

「今日の講義と実践は終わりです。今日の内容を踏まえて明日の実践練習の内容を少し変えようかと思います」

 基礎知識がしっかりしてるので、明日はもう少し応用をさせた内容にしたいと思うんです。
そう話すサクラはどこか嬉しそうに笑っている。

「そーか」
「そうですね」

 チリン。
店内に聞こえたのは、木の葉から輸入した風鈴の音。
四季を感じる木の葉では夏場に飾る物だが、砂隠れでは今や年中飾っている店も多い。

 人の少ない時間帯。
店内ではのんびりと談笑している客ばかり。
穏やかな空気が流れる中、店員が持ってきたソーダアイスがサクラの目の前に置かれた。

「わあ、おいしそうー」

 しゅわしゅわと音を立てるソーダ。
サクラがスプーンでアイスを突っつけば、柔らかく溶けていく。
幸せそうに口に頬張るサクラを見て、カンクロウは思わずゆるりと口元を緩めてしまった。

「……太るぞ」
「あ、ひっどーい! いいんですー、その分動きますからー」

 頬を膨らませて美味しそうに頬張るサクラに、カンクロウは食べ終えたアイスが入っていた皿を見る。
近くを通りかかった店員に、同じ物くれ。と声をかけた。

「太りますよ」
「動くからいいじゃん」

 ふふん、と笑うカンクロウにサクラも笑う。
店員が持ってきたソーダアイスを一口食べれば、ソーダがしゅわりと弾けた。

 カンクロウにとって春野サクラと言う人物、は他里の忍で監視と護衛の対象で、自分の命を助けてくれた恩人。それだけだったはずなのに。

 今はまだ、この距離間が心地良い。




5.ぼくのとなりで君が、
 お題拝借:確かに恋だった