茹だるような暑さに病院の待合室で項垂れる同僚を置いて、総合受付に向かえば、顔をあげたいのが気がつき先に声をかけた。

「あら、我愛羅くんじゃない」

 用件を言う前にいのが受付内部に向かって「サクラー、彼氏がきたわよー」と少し大きな声で叫ぶ。驚いた我愛羅が辺りを見渡したが、そこには人は疎らでおらず少しの安堵を覚える。

「ちょっと、いの! なに叫んでるのよ!」

 受付の奥から慌てて出てきたサクラは布巾を持って現れた。慌てるサクラの様子にいのはからかい笑う。

「はいはい、事実でしょーそれより今から休憩じゃないの? 行って来なさいよ」
「わ、わかったわよ」

 何で一々ああいう風にからかうかなぁ。とぶつぶつと文句を言うサクラだが何だかんだ、我愛羅との仲を手助けしてくれることに感謝をしている。

「相変わらず仲が良いな」
「まあねー」

 いのと仲良くじゃれあっていたサクラが上着を羽織り受付から出れば、待っていた我愛羅の後について行く。

「今日ナルトもきてるぞ」
「え、うそ! なんで……」

 我愛羅の横に並び目的の待合室の一角に進んでいく。ソファとテーブルが設置されたその場所は少し騒がしかった。

「いや、だからやっぱり白のドレスだって!」
「和装だろう、やっぱり」
「薄いピンクのドレスも似合うと思うなー」

 わいわいと騒がしく、雑誌を指差しながら話し合っていたのはナルトにサスケ、そしてヒナタとキバ。その様子を見て、隣に立つ我愛羅を見上げれば、少し頭を抱えていた。

「あ、サクラさん!」

 ヒナタが気がつき、ぱたぱたとサクラに駆け寄り「やっぱりドレスがいいですよね?」と視線を向ける。それがあまりにもワクワクと輝いていたのでサクラは思わず、うん。と頷いた。

「ほらよー、やっぱサクラちゃんウェディングドレスが良いって」
「いや、和装も似合うだろう」

 やいのやいの雑誌を見ながら話していたナルト達に向かって「何でお前たちがはしゃいでるんだ」と我愛羅が雑誌を取り上げた。

「いや、心配でさー」
 なあ、なあ、サクラちゃんはどんなドレスが着たいんだってばよ! と我愛羅から雑誌を奪いサクラに問うがナルトの背後からサスケが「だから和装だといってるだろう」と首根っこを掴んでいた。

「もう、何でみんなが話してるのよ」
 そりゃあ、一緒になって騒いでくれるのは嬉しいけども。腰に手を当て、目の前の幼馴染がまるで自分のことのように話してくれることは嬉しいけれども。それにしても過保護だろう。

「ところで友人代表は誰が挨拶するんだ?」
 キバの素朴な疑問に、我愛羅とサクラは顔を見合わせて目だけで会話をする。

(決めてた?)
(……いいや)

 共にまだ決めていないことを確認し「まだそこまで決めてないわ」と言えば、「ハイハイ!」とナルトが右手を大きく上げた。

「やっぱ、俺しかいないってばよ!」
「はあ? 何でお前なんだよ、ウスラトンカチ。そこは俺だろう」
 サクラの幼馴染であり、我愛羅と同じ会社に勤めるナルトとサスケが互いに立候補をする。ヒクリ。と口元を動かしたサクラの事など露知らず。

「なーに言ってんのよ、二人とも! 友人代表は私に決まってるでしょー! 私のお陰で二人は結ばれたといっても過言じゃないのよ」

 第三の立候補者が突然あわられた事にサクラと我愛羅はただ驚いた。驚く二人の横で、先ほどまで総合受付にいたはずのいのが友人代表争いに参加していた。

「オメー合コン開いただけだろ」
「うるさい!」
 キバにツッコまれたいのはぴしゃりと言い放つ。いのまで参加するとは思わなかったからサクラは少し広いでこを押さえる羽目になった。
 ギャーギャーと盛り上がる騒ぎに、ゾクリと寒気がしたサクラは思わず振り返り、顔を真っ青にして我愛羅の背後に思わず隠れた。

「お ま え た ち い い 加 減 に し ろ!!」

 一際大きな声が待合室に響き渡る。シンと静寂に包まれたと思えば、そこにはこめかみに青筋を入れていた、院長の綱手が仁王立ちをしていた。

「つ、つ、綱手院長!!」
「げっ……ばあちゃん!」

 いのとナルトのお驚いた声を皮切りに、くもの子を散らすかのように退散するナルト達。我愛羅とサクラも釣られて逃げ出す。

「今日は何時までだ?」
「三時で上がりだから、後二時間ぐらい!」

 総合入り口の西門から走って出てきた二人は、肩で呼吸をしながら太陽の日差しを全身に浴びる。
「終わったら連絡くれ、後で迎えに来る」
「わかったわ」

 そのまま走り去る我愛羅を見送り、サクラはぐーっと腕を伸ばす。空を見上げれば、光を放ち太陽が笑ってる。茹だるような暑さも、生温い風も、流れ落ちる汗だって、すべてが輝いて愛しく思えていた。

「さーて、残りの仕事も頑張りますか」

 ためらう二人は、もう居ない。


10. 躊躇いの日々に手を振って
 お題拝借:恋したくなるお題