「いいところに居たわ! ちょっと付き合って!!」

 角を曲がり、出会った人物に問答無用で手を引かれ、相変わらず強引だなあ。と頭の片隅でぼんやりと思ったが
にこやかに笑いサイは目の前で憤慨するサクラにただ大人しく手を引かれるだけだった。



「うーん、やっぱり餡蜜!」


人が多い甘味処。
メニューに目を配らせ目を輝かせていたサクラに、サイは瞬きをする。

「太るよ」
「うるさい!」
 今日の休みを思わぬところで潰されてしまったサイがほんの少しだけの嫌味を含めれば、
間髪いれずに反論された事に肩を竦めるだけだった。


「サイは何にするの?」
「僕は緑茶でいいかな」
「えー、なにそれ。あ、みたらし団子あるわよ」

 開いたメニューに視線を落とし、悪戯を思いついたように笑うサクラにサイは少しだけ眉間に皺を入れた。


「僕がみたらし団子嫌いなの知ってるくせに」
「まーまー、いいじゃない。あ、すみませーん!」

 人の話を聞かず、店員に餡蜜とみたらし団子を頼むサクラに業とらしくサイは溜息を吐く。


「それで、なんで怒ってたの?」
 テーブルを挟んで向かいに座るサクラに問えば、少しだけ眉を下げて、なんでもないと首を振る。

「また、ナルトと喧嘩でもしたのかい?」
「違うわ」
「じゃあ、サスケ?」
「違うわよ」

 視線を彷徨わせたサクラが、手元のグラスを両手で握り締めれば氷がカランと音を立てた。


「ちょっとした事よ。取り立てて騒ぐ事じゃないわ」

 ぎゅっと眉間に皺を入れ、翡翠の瞳をゆらゆら揺らしたサクラにサイはふう、と息を吐く。


「そんなに、僕等は頼りないかい?」

 呟くようなサイの言葉。
ざわざわと店内をにぎわす人の声が煩く響く。
 サクラが視線を上げれば漆黒の瞳が、サクラをじっと見つめていた。

「ち、がうわよ……ただ、」
「ただ?」

 今にも泣くのではないかと思うサクラの言葉を促して、ゆっくりとその先の言葉を待った。


「いつものように、お母さんと喧嘩しただけよ」

 もう一度視線をグラスに落とすサクラにサイは瞬きをする。
なんだ、そんな事か。とは思わなかった。

 親子の関係はよくわからない。
ただ、今分かる事はサクラが気を使っているという事だけ。
それは多分、両親がいない自分達には言ってはいけないと思っているのであろうとサイは思考をめぐらせた。

「なんだかなあ……」
「……なによ」

 眉を下げて笑うサイにサクラは顔を顰めて少しだけ唇を噛んだ。

「そんな気を使うなんて君らしくない」
「何ですって!」

 私だって人の気持ちぐらい分かります! となぜか敬語になり、ふんっと顔を背けるサクラにサイは「ほら」と笑う。


「今更じゃないか。よく喧嘩してるのは知ってるし目撃した事もある」
「もー……なによ。こっちは気にしてるのに」

 はああと大きな息を吐き、テーブルに突っ伏すサクラの髪がサラリと流れる。

「心配してるんだろう」
「もう、いい歳よ……いつまでも子ども扱いして欲しくないわ」

 ぽつりと呟く言葉は、エゴで本音。
しまった。と思いサクラが顔をガバリとあげればただ、サイは笑っていた。


「親にとって子供はいつまで経っても子供なんだよ」
「……そう、だけど」

 サクラが言い淀めば、本にそう書いてあったからね。とサイが事実を漏らす。


「そんな事だろうと思ったわ。何でも本を鵜呑みにするのは良くないわ」
「……肝に銘じておくよ」

 優しく笑うサイにサクラ口元をへの字に曲げ、はグイっとグラスの水を飲み干した。

「でも、今の言葉は嫌いじゃない」
「そう? じゃあよかったよ」

 やっぱり本って大事だね。と笑うサイにサクラもくしゃりと笑う。

「そうね、たまにはね!」

 カランとグラスの中の氷が音を立てれば、お待たせしましたー。と笑顔で運んできた餡蜜とみたらし団子を
 んー、美味しい! と破顔するサクラに単純だなあ、とサイは思うが言葉にはしなかった。



 破顔一笑


「サクラあげるよ」
「え? 食べないの」

 目の前に置かれたみたらし団子の皿をサクラにすっと渡す。

「いいよ」
「じゃあ、これあげるわ」

 サクラに差し出された、苦味のある緑茶。

「……いらないかなあ」
「残念だわ……」


 笑い合える関係が心地いい。



破顔一笑
2014.11.13リクエスト