ドサリと無造作に投げ出された事に少し恨めしく思ってしまう。
サクラ達までとはいかなくとも多少は丁寧に扱って欲しいところではある。
 昔から、それこそ出会った当初からリーに対して当たりが強かったような。

 だが、ここ最近の我愛羅の態度、言動が更に強くなった気がする。
リーにとってそれはライバルとして見られているのか、なんとも複雑な気持ちでしかなかった。


「動かないで、リーさん」
「はい、すみません」
 明るい太陽の下。
 思わぬトラップがあったが、人質奪還に成功し、Sランク任務にも拘らず
この程度の怪我で済んだのは不幸中の幸いだったのかもしれない。

 リーは寝転んだまま太陽を見た。
 サクラが治療してくれるチャクラが温かくて心地良い。

「はい、終わりです。取りあえずの応急処置は終わったから里に帰ったらきちんと病院に行って下さいね」
「有難うございます、すみません」
 体を起こしお礼を言うと、サクラにこりと笑った。
「どういたしまして。さて、問題は……」
 サクラが視線を上げる。
視線の先には我愛羅が居た。少しだけ眉を吊り上げサクラは立ち上がった。

「我愛羅君」
「……なんだ」
 リーの治療中腕を組んだままそこから見える景色を眺めていた我愛羅は視線だけでサクラを見た。
「なんだじゃないわよ。治療するから怪我を見せて」
 眉間に一本皺を入れサクラは我愛羅に詰め寄った。
「……大した傷じゃない」
「その判断は私がするわ」
 頑なに治療を拒む我愛羅に強硬手段に出た。

 我愛羅の左腕を掴んだサクラ。
 思わず顔を歪めた我愛羅にサクラを奥歯を噛んだ。

「痛くないわけ無いじゃない」
 ポツリと呟くサクラの言葉に、思わず我愛羅は押し黙った。
「普段からそう、もう少し自分を大切にしてよ」
 サクラの掌から流れるチャクラ。
 それを見ながら我愛羅は、お前が言うのかと言いたかったが、
サクラの瞳がゆらりと揺れたような気がしたため、口を噤んだ。


 我愛羅とサクラの様子を少し遠めで、リーはぼんやりと眺めていた。
今、間に割ってはいるのは何となく、野暮な気がして胡坐を掻いたままただ、眺めていた。




「サクラー!」
 瓦礫山と化した廃墟。
 サクラの名を呼び手を振ったのは別部隊で行動していた、いの。
 突如として動かなくなり、骨と化した今回の犯行グループについて様子を調べていたシカマル班が我愛羅達と合流した。
「いの!」
「サクラー、ちょっと早く着てー! カンクロウさんの毒抜き手伝ってー!」
「え! カンクロウさん!?」
 いのが発した言葉に驚いたサクラ。
 人質として捕まっていた少女と手を繋いだままだったサクラは歩いていの達に近づいた。

「アンタが大名の娘さんか」
「この度は助けていただき有難うございました」
 シカマルの言葉に深々とお辞儀をしてお礼を言う少女。
 カンクロウが魘され、倒れている横で毒抜きをしているサクラの横で少女は立っていた。
「色々と聞きたい事とかあるんだが、まぁ、一回帰ってからにしよう」
 シカマルは少し考え、詳しい事は依頼主である大名に聞けばいいかと判断を下す。
何か善からぬ事をしようとして事件に巻き込まれた可能性が高いと考えた。




 ジャリっと足元から音が鳴る。
 リーは目の前を歩く我愛羅を見た。
「我愛羅君!」
「……なんだ」
 先にシカマル達に合流したサクラから少し遅れ、歩いていた我愛羅とリー。
 振り返らずそのまま歩く我愛羅に少しだけ、リーは眉を吊り上げた。

「僕は、サクラさんが好きです」

 突然のリーの告白。瓦礫を乗り越えようと右足を乗せていたが思わず足がピタリと止まる。
「出来る事なら隣に立ちたい。サクラさんと共に生きていきたい」
 ゆっくりと我愛羅が振り向けば、リーは真剣な眼差しで我愛羅を見ていた。
 思わず眉間に皺を寄せた。
「だけど、サクラさんの隣に居るのは僕じゃないんです。サクラさんが選んだのは僕等じゃないんです」
 リーは改めて思う。
 サクラが何時の日か木の葉の里を去る日が来るだろう。
 我愛羅を見ていた眼差しが、今まで見たこともないほど優しかった事に寂しさと悔しさ、そしてどこか諦めもついた。
 考えれば考えるだけ、サクラを思っていた気持ちは嘘ではないし冗談にもしたくない。
 少しだけ目頭が熱くなった事に気が付かないふりをした。

「サクラさんを悲しませる事があれば僕やナルト君が黙ってませんからね」
 ビシッと我愛羅を指差すリーと珍しく驚いた表情をする我愛羅。

「サクラさんをよろしくお願いします!」
 リーは爽やかに笑って見せた。


「我愛羅君! リーさん! ネジさん達と合流しましょうー!」
 カンクロウの毒抜きが終わったサクラが中々来ない二人に手を振りながら呼びかけた。
「はい、サクラさん! 今行きます!」
 サクラの声に反応し、パッと顔を上げ嬉しそうに駆け出したリーとその場から動かない我愛羅。
 我愛羅の様子に首を傾げたサクラはリーに問う。
「我愛羅君どうしたの?」
 サクラの少し大きな瞳が不思議そうにリーを見る。

「えっと、男同士の約束です!」
「え?」
 白い歯を見せながら笑うリーと未だに動かない我愛羅を交互に見てサクラは更に首を傾げる事になる。




5.ただ、ひたすら、
 貴女の幸せを願っています。





 ***


 パチン

 鋏の音を立て真新しい包帯を丁寧に切る。
 応急処置をしたとは言え傷は残ってしまっていた。
「はい、終わり」
 にこりと笑ったサクラの顔をじっと見たのは我愛羅。
「どうしたの?」
 上着を着ずに上半身裸のまま。帰ってくるときからどうも様子がおかしいと思っていたが一体どうしたのか。
 サクラはうーんと考えた。

 木の葉病院の医務室。ベットに座ったままの我愛羅と我愛羅の目の前に立ち治療をしていたサクラ。
 突然サクラの腰に我愛羅が抱きついた。
 少しだけ、息が止まったサクラ。

 我愛羅はその細さに、力を入れてしまうのを戸惑った。

「どうしたのよ、本当」
「お前を……」
 珍しくはっきりとしない物言いにサクラは我愛羅の頭を優しく撫でた。

「お前を悲しませないように努力はする」
 ぽつりと呟くような、誓うような物言いにサクラは笑う。
「ふふ、本当、可笑しな我愛羅君」
 くすくす笑うサクラに腰に回している腕に、少しだけ力を入れた。


「……男同士の約束だ」








お題拝借:確かに恋だった
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