夜になれば肌を刺すような寒さに肩を震わし、湯浴みから上がり髪の毛が乾くのもそこそこに愛しの布団に潜り込もうと掛け布団を掴んでふわふわの布団に身体を滑り込ませた所で名前を呼ばれた。

「サクラ、もう寝るのか」
「うんー、今日はもう寝るわ。もう明日の私にお任せするわ」

 ガシガシとタオルで頭を拭いながら問いかけてくる我愛羅くんにそう答え、さっさと布団に身を投げ、おやすみなさい。と背を向ける。

 ギシリ、と妙に鈍い音が静かな部屋に響き渡るのに嫌な予感しかしなかった。

「奇遇だな、オレも明日非番だ」
「何が奇遇よ、我愛羅くんがそうしたんでしょ」

 職権乱用もいいところだ!と叫ぼうとしたが思いの外近い距離から見下ろされていた事に気が付き心臓がドキリと跳ねた。

「サクラ」

 妙に低い声色。
心臓がざわざわと主張するが、今日は負けぬと心に誓う。


「イヤ!」

 折角お風呂に入り、今から気持ちよく寝ようとしているのに目の前の男は自分の欲に忠実なのだろうかと頭を悩ませる。

「まだ何も言ってない」
「言わなくても分かるわよ!」

 布団を頭から被ろうとがばりと布団を両手で掴んだその一瞬、我愛羅くんの両手が脇の下に滑り込んでくる。

「ひいいいいい!」
「失礼だな」

 むすりと聞こえるような表情で見下ろしてくる我愛羅くんの濡れた髪から雫が一滴頬に落ちた。

「馬鹿! 変態! 色欲魔人!!」

 うぎゃあと布団の上で暴れる私の気持ちなんて露知らず。
風呂上りでいつもより高い、体温の我愛羅くんの唇がうなじに落とされる。

「馬鹿…! むぐっ!」
 ぎゃんぎゃん喚いていた私の唇を我愛羅の手が遠慮無しに塞いでしまう。
見下ろしてくる我愛羅くんをチラリと見れば心底意地が悪く笑っていた。

「優しくされるのと、強引にされるのとどちらがいい」

 にこりと、笑う表情に。ああ随分と笑うようになったんだなあ、と心の中で乾いた声で呟いた。

「そりゃあもう! 優しくされるのがいいにきまってるじゃないですか!」

 あはははと笑えば、よしよしと頭を撫でられパジャマの裾から入り込んだ手のひらが火傷しそうなほど熱かった事に、ついつい叫んでしまった。

 ああ、明日の私。
明日こそは流されないように頑張って。

 そんな事を思いながら酷く優しい手のひらを甘受するしかなかった。


おわり。

2014.12.04.blog掲載