鼻先を掠めるふわふわした真っ白な存在に顔を上げれば薄暗い空から白い塊がどんどん落ちてくる。
 はあ、と息を吐け空気を白く染め、肺に酸素を取り込めば体の中から冷えてしまうのではないかというぐらい冷たかった。


「あ、我愛羅くん。どうしたのよ」

 玄関口に備え付けてある植え込みの花壇。
花をつぶさぬように腰を下ろしていれば頭上から声を掛けられ、ゆっくりと顔を上げた。

「待ってた……」
 空気が冷た過ぎて鼻が痛い。
しゅん、と鼻を啜れば隣に立つ薄紅色の髪がはらりと揺れた。

「仕方ないわねー。はいこれ」

 きゅっと首に巻かれたのは今し方目の前の人物が身につけていた花柄のマフラー。
花のような香りと、暖かさに思わず目を細めてみせた。

「サクラは寒くないのか」

 我愛羅が聞けば、ぜんぜーん。とにこやかに笑う。

「大体、待っててくれるのはいいけど教室にいればいいじゃない」
「……山中に追い出されたんだが」

 委員会で遅くなるサクラを待とうと教室に居座っていたが、鍵を閉めるからさっさと出て行けと目で訴えかけられ行き場が無く仕方なく玄関口で待っていたのだ。

「あ、そうか。今日いのが当番だったもんね。だったら先に帰ってて良かったのに」
 そういいながら時計を見るサクラに我愛羅は顔を顰めた。

「もう、暗いしな」
「……ふふ、ありがとう。心配してくれて」

 夕方の六時を回れば既に太陽は沈み闇夜が顔を出す。
そんな暗闇をサクラが一人で歩いているのを考えただけで我愛羅は卒倒しそうだった。


「帰るぞ」
「うん!」


 一歩、じゃりっと足元から聞こえるのは砂の音。
腕を伸ばしてサクラの手をとれば少し高い体温が心地良かった。


「明日さー休みじゃない」
「そうだな」
「どっか行こうよ」
「……寒いから嫌だ」
「もー寒がりねぇ……いいわよだったら我愛羅くんの家に行くから」
「それならいい」


おわり。

2014.12.05.blog掲載