blog掲載小話。本誌から妄想。





 浮遊する砂に乗り懸命にナルトに呼びかけ治療するサクラの声が耳に残る。
ただ、泣くわけではなく、それは命を呼び戻そうと懸命に呼びかける声だ。
 春野サクラを言う女は綱手が信用するほどの医療技術を持つのだ。
 一体、どれだけの人間の生と死を見てきたのだろうか。

「ナルト! こんな所で死ぬんじゃないわよ!」
 助けるから! 何が有っても。
 そう、誓うサクラの心の中など誰も知るはずは無い。
 サクラは見ていたのだ、確かにあの時、人柱力である我愛羅が生き返ったのを。
 砂のチヨばあの術をサクラは間近で見ていたのだ。

 じっと、サクラの治療を見る我愛羅はふと、思い出していた。
 自らが助かったあの時を。
 ただ一人だけ、涙を流しチヨばあの為に心を痛めた目の前の少女が目に焼きついて離れなかった。

「サクラ」

 ただ、静かに。
 戦場に似つかわしくない、声色だった。
 ゆっくりと瞳を上げたサクラに我愛羅は少しだけ息が止まった。

 覚悟を決めている瞳だ。

「早まるなよ。方法は無いわけじゃない」
「どういう、ことよ…」
 どきり、としたのかサクラはほんの少し動揺した。

「お前の命と引き換えなんてことになったら、ナルトもサスケも……誰も喜ばない」
「……」
 我愛羅の言葉にギュッと下唇を噛み締めたサクラを一瞥して、前を向いた。

「ナルトが死んだら悲しいが、俺はお前が居なくなっても悲しい」
「我愛羅君……」

 その言葉の意味は我愛羅自身よく分かっていなかったが自然と出た言葉だ。

「うん……嘘でも嬉しい」
 にこりと、寂しそうに笑うサクラの笑顔に、我愛羅は胸が締め付けられる思いがした。

 この少女の心を占めてる者達を殺してはいけないのだ。
 そう思うのと同時に、この少女の心に入り込めないのだと、思い知らされた気がしてならなかった。



おわり。

Blog掲載:H26.01.22
HP掲載:H26.02.8