初恋恋歌
砂から木の葉へ里帰りし、いの達と久々に再開し女子トークを繰り広げる中話題に上がった話題に上がった人物の事について、はてどうなのだろうか。と疑問符が頭を過ぎった。
「そう言えば、あの人の初恋ってどうなんだろう」
ぽつりと呟いたその言葉は目の前の噂好きの面々にしっかりと届いていたようだ。
「サークラー、それ気になる」
「そうねーあの風影の初恋ねー、気になるわねー」
にやりと笑う親友と一期上の先輩の顔に思わず顔を顰めてしまった。
「と言うか実際どうなのよ」
「なにがよ」
いのが何のことを聞いているのか分から疑問を返すとテンテンが代わりに質問を投げかけてきた。
「夫婦生活よ。夫婦生活」
「なっ!」
「だってさー、全然想像付かないもんね」
「ちょっと、テンテンさん!想像なんてしないでくださいよ!」
いのとテンテンの言葉に思わず顔に熱が集まるのを理解する。
「ふ、二人とも、サクラさんが困ってるじゃない……そういうの聞くのは……」
「なによーヒナタ。でもちょっとは気になるでしょ」
「ぅ……うん」
興味心身に目を向ける三人にサクラは誤魔化すように目の前にある紅茶を一気に飲み干した。
「ねーどっちから? どっちから誘うの?」
「風影様からじゃなさそうよね。じゃあ、サクラから誘うの?」
「サ、サクラさん大胆です……!」
「違うわよ!」
好き勝手に言う三人に思わず真っ赤になって否定をした。
そんな会話が繰り広げられたのはつい数日前。
いのとテンテンが「次に会う時までに聞いておきなさいよ!」と言った言葉が頭の中に残っていた。
本当に大した事ではない筈だ。
ただ、ちょっと聞けばいだけ。なのにそれを躊躇すると言うのは心のどこかで彼が誰を好きになったかを知りたくないと思っているからだ。
自宅の居間にひょこりと顔を出せば、ソファに座りテレビの前で新聞を広げている夫であり風影である我愛羅の姿が見えた。
さて、どうしようか。
悩んだけれど、どうしようもない。
実際気になるのもあるけれど、もし聞いていなかったらあの三人の事だ。被害を被るのは目に見えている。
小さく息を吐き、意を決して我愛羅が座っているソファの隣にポスンと腰を下ろした。
「が、我愛羅君!」
自分でも驚く少し大きな声。隣に座っている我愛羅は新聞から顔を上げ、瞬きを2度程した。
「……どうした」
我愛羅の少し薄い若緑の目がサクラを視界に入れる。
その目に「うっ」と怯んでしまう。
10代の若くて可愛らしい女の子じゃないのだ。
うーんと考えるサクラにスッと手を我愛羅は手を伸ばす。
それに気が付かないサクラは、バッと顔を上げた。
「初恋!」
「ん?」
聞きなれない言葉に我愛羅は思わず手を止めた。
「初恋?」
「そう、初恋。どんな人だった?」
サクラの言葉に珍しく口元を歪めた。宙に浮いていた行き場の無い腕を下ろし首の後ろを掻いた。
「…俺に聞くのか」
「えーだって気になるー」
きゅっと眉を上げ見上げてくるサクラに我愛羅は目を細める。
「髪…」
「え?」
ぽつりと呟くような我愛羅の言葉。
「髪の長い女だった」
「それだけ?」
我愛羅の答えが少々不満なサクラは眉間にぐっと皺を寄せる。
「気が強くて、俺に立ち向かってきた女だ。…いつの間にか髪を切っていたけど」
我愛羅の言葉にくいっと首を傾げたサクラ。
「えー我愛羅君に立ち向かっていく人って誰かしら?そんな命知らずな…」
誰なんだろう、そんな無謀な事をする女の人はと考える。
そんなサクラを見ながらほんの小さく溜息を吐く。
「昔も今も変わってない」
「え、誰、誰?もしかしてテマリさん?それともマツリちゃん?」
大きな瞳を更に大きくさせ我愛羅に問いかけるサクラの返答に、そんなわけあるか! と心で呟いた我愛羅は目の前で悩み考えているサクラを見て昔を思い出した。
「…俺に立ち向かってきた女はお前しか居ない」
「ん?」
我愛羅の言葉の意味が分からずに考えるサクラに、我愛羅は再び腕を伸ばした。
「初めて好きになった女は今隣に居る」
「!」
我愛羅の言葉が頭の中で反響し、その言葉を理解した時思わず呼吸が止まる。
思わず真っ赤になるサクラの顔を見て、伸ばした左腕でサクラの肩に手を置き、押し倒した。
ぐるりと視界が反転し、影が落ちるのに息を飲む。
くしゃりと破けた新聞紙の音が何処か遠くで聞こえた気がした。