ドクリと動く心臓。
今まで病気とは無縁だったこの体に異変が起きたのは一体何時からだったか。
ギューと握り潰されそうな感覚に恐怖を覚えた。
「心臓が痛い?」
頬杖を付き、器用に右眉だけを吊り上げたのは五代目火影の綱手。
「今までこんな事言ったことなかったんですが。もしかしたら何かの病気かも知れないと思い……」
綱手の問いに返事をしたのはテマリ。
突然の訪問に驚いた木の葉の里。
連絡も無しに突然やってきた風影とその姉兄に、一体どうした?
と問えば返ってきた言葉に話題の対象者に視線を向ける。
「至って元気そうだが」
腕を組黙り込んでいる人物、我愛羅は顔色一つ変えず無表情この上なかった。
「なにか、病気の兆候でしょうか。診察しますか」
トントンを抱え聞くのはシズネ。
うーん、と考え綱手はじーっと我愛羅を見る。
「一体どんな時に痛むんだい?」
「ああ、それは……」
「綱手のバーチャン! 今任務から帰ったてばよ!!」
バーン!
ノックも無しに扉を開け現れた人物。
「ナルトじゃん」
「あれ? お前ら何やってんだってばよ?」
珍しい客人に驚いたのはうずまきナルト。
風影の兄、カンクロウは突然現れた人物に説明をしようとした瞬間、
「何やってんのよ、ナルト! ノックも無しに入るなんて!!」
怒鳴りながら入ってきた桜色の少女はナルトの頭をガツンと殴った。
ピクリと我愛羅の肩が少し動いた事に誰も気がつかなかった。
「お前達! 客人の前だぞ」
「すみません、綱手様」
「何で砂の人間が木の葉に居る?」
「まぁ、まぁ。サスケ君。折角来てくださってるのに」
「そうそう、細けぇ事は気にすんなってばよ! それより、任務か? 合同任務なのか?」
わらわらと室内に入ってきたのは七班として活動していた、ナルト、サスケ、サクラ。そしてカカシの4人だった。
「我愛羅君、お久しぶり」
「ああ」
サクラの問いに短く返事をする我愛羅。
別段気にするわけでもなく、サクラは言葉を続ける。
「講義は来月あるからまたよろしく。マツリちゃんとかどう? 医療忍者の……」
「お前と」
にこにこと笑いながら話すサクラの言葉を遮った我愛羅。
少し驚いて瞬きを2回したサクラはじっと我愛羅の顔を見た。
「お前と居ると、心臓が痛い」
「え」
ぽつりと呟いた言葉。
しかしその言葉を呟いた我愛羅のサクラを見る目はすごく優しく、
姉兄であるテマリとカンクロウも見たことの無い表情をしていた。
その表情は、周りが恥ずかしくなるほど優しく笑っていた。
「お前と居ると心臓の奥が捕まれたように痛い」
その痛みは幼い時に味わった辛く苦しく、泣き叫びたい痛みとは違っていた。
甘く、切なく、そしてその痛みが少し心地よかったことに我愛羅自身戸惑っていた。
「我……我愛羅、まさかお前」
弟のまさかの発言にカンクロウは目を見開いた。
いや、カンクロウだけでなくその場に居た全員が驚いた。
真っ直ぐ向けられた同じ翡翠の瞳にサクラは少し頬を染め、心臓がうるさく主張する。
「はっはっは! そうかい、そうかい。いやー風影も人の子だということさね。
若いっていいねぇ。結構結構。あたしゃ安心したよ」
わっははと笑う綱手。
「この痛みは消せぬのか」
「いいや消せるよ。ただ、それにはちょっと障害が多いかねぇ」
チラリと視線を動かす綱手。
視線の先にはわなわなと震えている三人の姿。
「どうすればこの痛みは消える」
「そうだねぇ……」
頬杖を付いてサクラを見てニヤリと笑う。
「サクラからの愛情を貰えば治るかもしれないね」
「なっ!!」
思わず声を上げたナルトとサスケ。
これでもかと言う程に顔を真っ赤に染めたサクラ。
「だ、駄目だってばよ! サクラちゃん!! バーチャンも何言ってんだってばよ!!」
「何言ってんだい、どうするかは本人次第だろ」
「綱手様……」
大笑いする綱手に溜息を付くシズネ。
「そうか」
呟いた我愛羅はじっとサクラを見た。
「え、ど、どうしたの」
一歩、後退りをして我愛羅に視線を向けると視線を逸らさずにジィと見ていた。
サクラに近づこうとする我愛羅の前に割り込むサスケ。
「それ以上近づくな」
「……」
我愛羅を睨み付けるサスケに少しだけ眉間に皺を寄せた。
まさに一触即発。
戦うのか。仮にも風影相手に。
誰もがそう思い、緊張が走る室内。
何とかしようと思ったサクラは二人をなだめる様に言葉を発した。
「ま、まぁ。二人ともそんな喧嘩腰にならないで」
二人の間に移動したサクラ。
「……ここは煩い、静かに話も出来ぬ」
言葉と同時に室内に舞う砂。
砂が濃くなったかと思えば、我愛羅とサクラの姿が無かった。
「二人が消えたってばよー!!」
ナルトの焦る声が木の葉の里に響き渡った。
弟のまさかの行動に今まで傍観していた姉兄はいつの間にか手を取り合っていた。
01.鼓動
「我愛羅君! 我愛羅君!!」
通称、お姫様抱っこをされていたサクラは自分を抱き上げている人物の名を呼ぶ。
「なんだ」
驚くほど軽い腕の中にいるサクラの呼びかけに、移動しながら返事をする。
「取りあえず、降ろしてくれないかな」
その言葉にそっとサクラを降ろせば、其処は木の葉の里が一望できる顔岩の崖の上。
さわさわと二人の間を吹き抜ける風。
靡くサクラの髪に手を伸ばし、頬を撫でた。
「どうしたらいい、どうしたらこの痛みは取れる」
優しくサクラの頬を撫でながら問う。
「えっと、まずは友達からはじめましょう」
我愛羅の手をとり眉を下げ笑った。
サクラの手の温かさと、眉を下げ笑った顔に心臓がドクリと違和感を持った。
この温かさが、笑顔が欲しいと強く願った我愛羅の猛アプローチが続いたと言う。
2013.7.09 掲載