男の子の背中は大きい。小学生の頃は変わらなかった身長もあっという間に追いつかれていつの間にか追い越されてしまった。

「……どうした」
「んー」

 学校帰りの遊歩道。目の前を歩いていた我愛羅が立ち止まり、覗き込むようにサクラの顔を見る。覗き込まれたサクラの視線の先に写ったのは、首元まできっちりと閉じた我愛羅の白いシャツ。
秋も近いがま出すこしばかり暑い空気が漂うのによくそこまで、閉めていられるなとサクラはぼんやりと思いながら笑みを浮かべた。

「ねえ、我愛羅くん」
「なんだ」

 サクラが視線を上げれば、ぶつかり合う淡い緑に輝く瞳。無表情の中にも穏やかさが漂っている。

「私のこと好き?」
「んな……!」

 カッと目元を赤く染める我愛羅にサクラは声を上げて笑う。からかう様なサクラに笑うな。と抗議した我愛羅がサクラの頬を軽くつまむ。

「いたいー」

 笑いながらも、放してと暗に言えば、我愛羅の手がするりと離れる。頬を押さえていたサクラは跡が付いたらどうするの。と声を上げようと我愛羅に視線を向けた。途端。

 ふにり。と唇に柔らか感触。
突然の事で何が起こったかわからなかったサクラは目を見開き呆然と立ち尽くす。

「……冗談でこんなことはしない」

 口早に言葉を締め、サクラを置いて歩いていく。どんどんと離れていく我愛羅の背中を見て、サクラは一度、自分の人差し指で唇を撫でた。

 やられた!
目尻を真っ赤に染め、肩を震わせサクラは口元を一文字に引く。少々困らせようとしたら返り討ちにあったのだ。

「我愛羅くん、覚えてなさいよー!」

 木霊する声と共に、穏やかな風が吹いて木々が揺れる。遊歩道を色付かせる木々は二人を優しく見守っていた。


05.不意打ち