穏やかな午後。
 珍しく心地良いと感じる日中。
 聞こえてくるのは里内で遊んでいる子供達の声。

 その声を聞き、平和だと感じる事が来るとは昔の自分では考えられない。

 カツリカツリと人気の無い通路を歩く。
 ふと、聞こえる声に思わず足を止めてしまった。

「サクラ先生ー! じゃぁ、この比率はどうなるんですか」
「はい、いい質問です。毒も様々な物が有りますので実験してみましょうか」
「はーい」

 会議室の一室。
 聞こえてきたのはサクラとその生徒達の会話。

 数ヶ月間の医療講師として派遣されたサクラの元に、医療忍者見習いの若い忍達が授業を受けている。
 サクラが笑いながら質問に答えていた。

 ぼんやりとその光景を廊下から眺める我愛羅。
 その視線に気がついたのか、サクラは顔を上げ瞳だけ動かし通路を見る。
 パチリと絡まる視線。
 サクラは目元を少し細めて笑う。
 その表情に我愛羅は少しだけ息を呑んだ。
 
「サクラ先生ー、これどうするんですか」
「んー、どれー?」
 生徒の一人に呼ばれ我愛羅から視線を外したサクラ。
 さらりと流れる髪の毛が陽の光に反射して輝いていた。


 カツリカツリと足を進めて廊下を歩く。
 少し赤くなっているであろう頬を掌で押さえた。

 我愛羅は歩みを止め、人気の無い廊下に背中を預けて息を吐く。


 優しく甘い、あの視線。
 また一つ、手放したくなくなった。



06.視線



H25.9.12