何処にも行かず閉じ込めてしまえたのならば。
 自分と同じ翡翠色をした瞳は自分と違う世界を映し出す。

 その視線の先には大切なものは沢山あって、守りたいものが沢山あることも知っている。
 特別に、大切にしている人間がいる事も知っている。

 仲間とか友愛とか、そんな言葉で片付けられない繋がりを持っている事を知っている。
 盲目的なその間には、決して誰も踏み込めないのを知っている。


 彼女が自らの手を取ったことは奇跡に近い。

「サクラ」
「んー、なあに」

 我愛羅の自室。
 呼びかけに返事をしながらも視線は医学書に向けられたまま。
 寝巻きに着替え、ベットに腰を下ろしていたサクラ。
 
 風呂から上がり、乱雑に拭った髪の毛。
肩にタオルを掛けたままサクラの目の前に立つ。
 座ったままのサクラにそっと両手を伸ばし、頬を撫で首筋に触れる。

 ポタリと零れ落ちる滴がサクラの頬を濡らす。
「もー、髪の毛濡れてるわよ」
 パタンと医学書を閉じ我愛羅の肩に掛けているタオルを手に取り、我愛羅の髪の毛を優しく拭う。
 サクラの掌の感覚が心地よくゆっくりと瞼を閉じる。
サラリと流れるサクラの髪の毛を耳に掛け、目尻と頬に唇を落としてサクラの細い腰を抱きしめた。

「ちょ、我愛羅君」
 抱きしめたままの体制で、ふわふわと柔らかいベットにバフッと沈むように押し倒した。
「どうしたの? 我愛羅君」
「なんでもない」
 心配をするサクラを他所に首を横に振る。

「本当、どうしたのよ」
 我愛羅の背中に手を回し、ポンポンと軽く叩く。

 くすくすと笑いう声を聞きながらサクラを抱きしめる腕に力を込める。

 華のように笑う彼女をずっと腕の中に閉じ込めていたい。
 このままずっと、彼女を自分しか見えないように、自分のことしか考えないように
してしまいたいと願ったことは腹の中に押さえ込んだ。
 彼女の瞳に映るもの全てを奪って、彼女の心に残るもの全てを奪えてしまえたら。


 きっとこれはただの嫉妬。
 彼女が大切にしているものに対して、もどかしいただの嫉妬。




12.奪いたい




 彼女を彩るすべてが自分であればいい。






H25.7.24