心地良い春の陽気に欠伸を一つ。
 目の前をキラキラと流れる小川に心を穏やかにし、手入れが行き届いている河川敷に
ゴロリと横になり空を見ると鳥が数羽飛んでいるだけで真っ青で綺麗だった。

「ふわぁー」
 先程よりも大きな欠伸を一つ。
 ここ最近の任務や講義と休まる時間が取れなかったサクラは人通りの少ない
里外れの小川で医学書を持ち、今日一日のんびりと過ごそうと決めていた。

 そよそよと風に揺れる草花。
若々しい緑の香りに包まれ、今し方読んでいた医学書をお腹の上に乗せ
瞬きを2度ほどすれば、もう意識は穏やかな空気に飲み込まれていた。





 ジャリと足元から音が鳴る。
 目的の人物を探して家を訪ねれば不在。
彼女の親友である花屋の娘に所在を尋ねれば、最近一人になれる落ち着いた場所があるらしいと聞き
その場所に着けば、うら若き女性がなんとも無防備に河川敷で寝ているではないか。
 もしや何度もこんな事があるのかと思えば肝がヒヤリと冷えた。
 万が一にも何か起こったらどうするつもりだと心の中で未だ眠りこけている彼女に問う。
 いくらこの里が他の里よりも幾分か平和だと言われているとしてもだ。

 もう少し、自覚をして欲しい。
 ただでさえ一緒に居られる時間は少ないというという事と、
好意を寄せる相手が身近にごろごろと転がっている事を。

「……まったく」
 気配を隠すわけでもなく未だに気持ちよく眠っている彼女に近づき、隣で片膝を付く。

「サクラ」
 名を呼び、右頬を軽く叩くも起きる気配がまったくない。
「……本当に忍か」
 目の前で幸せそうに眠っているサクラに少し呆れつつも、彼の姉兄が見たら泣いて喜ぶような優しい笑顔をしていた。

「う、うーん……」
 目を擦る仕草が妙に幼く見え、ゆっくりと掌をサクラから離す。

「はれ? が……あら?」
 寝ぼけながら、現在目の前に居る人物がここに居るはずがない。
そう思い首をくいっと横に傾けた。

「えへへー我愛羅君だー。久しぶりー」
 寝転んだまま両腕を伸ばすサクラ。
目の前の人物がここに居るわけがないという事はこれは夢だと思い込み存分に甘えた。

「お前は……」
 はぁ、と溜息が出るも腕を伸ばすサクラをまるで子供を扱う様に、脇の下に腕を回し、上半身を抱きかかえた。
我愛羅の首にサクラは腕を回し、肩に顔を埋めた。

「……我愛羅君の匂いがする」
 そう言うと安心しきったのかサクラは意識を手放した。


 腕の中で眠るサクラを抱きかかえ、我愛羅はゆっくりと立ち上がる。
 頬を真っ赤に染めた事に気がつく者は誰も居なかった。

 柔らかで穏やかな風だけが、二人を温かく包んでいた。


16.うたた寝





H25.8.15