日が昇る前の早い時間帯。
 風影の塔を歩き目的の場所まで急ぎ足で歩く。

 目的の部屋前で立ち止まりノックをする。

 コンコン

 中に居る人物を思い浮かべればガチャリと扉が開き、目の前に薄紅色が広がった。
「我愛羅君、どうしたの」
「どうしたじゃない。何時まで部屋に篭っているつもりだ」
 目の前の女性。
 知り合ってからもう、随分と経つ。
 昔は同じぐらいの背丈だったが、何時からだろうか。見下ろすようになったのは。

 朝の人気がない時間帯。
 木の葉の里から来た腕利きの医療忍者であるサクラは、
どうしてここまでこの砂隠れの里に尽くしてくれるのだろうかと考えた事があった。
「え、もうこんな時間!」
 里滞在中、作業をするときに使用する部屋とは別に、客室を使用するように伝えている。
初めて任務依頼をした際に用意していた客室は豪華すぎて落ち着かないと言われた為、
白を基調とした、シンプルな角部屋の客室はいつの間にかサクラ専用の客室になっていた。
 と言うより、サクラが帰った後、掃除をするとは言え他の者が使う事が、何となく気に入らなかったからだ。

「……また寝ていないだろう」
「うぐっ……」
 はぁ、と小さく溜息を吐けば、サクラはヒクリと唇を引き上げた。

「いやーちょっと、砂の里で調合できる薬のリストを纏めていたらね、
思いの外時間が掛かっちゃって……」
 あははと笑うサクラの目の下にははっきりと隈が出来てしまっていた。
 白い肌を汚す、黒い存在が許せなくて少し目を細めた。
気がつけば自分の左手がサクラの顔に触れそうになった事に驚いた。
 持ち上がってしまった左手を誤魔化す様に、サクラの左肩にポンと置いた。

「マツリから聞いた。ここ数日休んでいないと。
里の為に尽くしてくれるのは有難いが、お前に何かあったら火影に顔向けが出来ない」
 ぱちぱちと瞬きを2回するサクラの表情は少し驚いていた。

「有難う。御免なさい、心配掛けて」
 言葉とは裏腹にくすくすと笑うサクラに首を少し傾けた。
「どうした」
「ううん、まさかそんなに心配してくれているなんて思わなかったから、
嬉しくてね。わざわざこんな時間に来るぐらいだし」
 笑うサクラに、思わず自分の行動を振り返れる。
 早朝、人気が無い塔内。
 サクラの姿を見たと同時に腹の辺りがじわりと温かくなる感覚に気が付いた。

 目の前でにこりと笑うサクラを見て、触れたい。
 閉じ込めて誰にも見せずに、自分だけのものにしたい。

 そんな想いが自らの中にあることに自覚し、思わず口元を左手で押さえた。

「我愛羅君?」
 不思議そうに見てくる大きな瞳。
 その心地良い名前を呼ばれるたびに嬉しくなり、
隣に居るだけで幸せだと感じる。たったそれだけの事に涙が出そうになった。


 知ってしまえば、意識するしかなかった。



2.これが、恋?





 こんな気持ち、初めてだ。


H25.7.30