「サクラは彼氏はいないのかい?」
「え」


 聞こえてきた会話に、思わず足を止める。
 気配を殺した事に、テマリは気がついたかもしれない。





「やだー、何言ってるんですか、テマリさん」
「いやいや、アンタぐらいなら彼氏の一人や二人居るんじゃないかと思ってね」
 テマリの自室。
 私用の為向かえば、中から聞こえてきた声に心臓がドキリとした。
 戦闘では動揺など微塵もしないというというのに、事恋愛に関してここまで感情が揺らいでしまうのかと思えば
影を名乗る者として少し、情けなく感じた。

「一人や二人って……居ないですよ。今は任務漬けの毎日ですし。テマリさんこそどうなんですか」
「私のことはいいんだよ。それにしても、ナルトやサスケと恋仲じゃなかいのか」
 よく知る名前が出てきた事に、僅かにだが体が震える。
 特に、うちはサスケ。
 サクラは公言していたはずだ。その男が好きだと。

「違いますよ。うーん、なんて言うんだろう。二人は本当に大切な仲間で、私の憧れでもある存在かなぁ。
ナルトとサスケ君が居たから頑張れたし、二人に追い付きたいと思ったし」
「でも、サスケの事は好いていたんじゃないのか?」
 テマリの言葉に無意識に奥歯を噛んでいた。


「……うん、好き、でした」

 サクラがどんな表情で、どんな思いで言ったか知らない。
 ざわざわと腹の辺りを流れる血液の感覚に気持ち悪くなる。

「でも、よく言うじゃないですか。初恋は実らないって」
 泣いているような声色だった。
 彼女は、サクラはどれほど彼を好いていたのだろうか。
 どれだけ彼を愛していたのだろうか。

 それ以上、聞きたくなくて、聞いてはいけないような気がして足音なくその場を離れた。
 


 サクラが捨てた想いにすら嫉妬した。
 諦めたその想いに僅かに残る感情が自分に向けばいいのだと、勝手ながらに思ってしまった。

 ガチャリと音を立て開けた執務室。
 椅子に座り書類を手に取るが文字を追うだけで頭に入らない。

 はぁ、と溜息を吐き窓から空を眺めれば、憎いぐらいの晴天が広がっていた。





3.初恋は叶わない、ジンクスさえも憎い





「今、好きな男は居ないのか?」
「今ですか?」
「そうそう、居ないならさ……」
「居ないなら?」

「我愛羅とかどうだい?」

「え! 我愛羅君!?」
「そうそう、姉の私が言うのもなんだけど、顔も悪くないし、性格も今は落ち着いてるし、
ああ見えて意外と優しいし、何より風影! 悪くないと思うんだけどねぇ」
「……我愛羅君」

「アンタが嫁に来てくれれば安泰なんだけどねぇ」
「で、で、でも」
「悪い話じゃないと思うんだけどね。我愛羅の事どう思う」


「我愛羅君は優しい、優しすぎて泣きたくなる」






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