歌が聞こえる。やさしいやさしい子守唄だ。
優しい声は、辺りを穏やかに包み込む。

「……ん」

 小さく声をあげ、両手を床について身体を起こせば、さらりと滑り落ちるブランケット。畳の上に落ちたそれを掴み上げ、ひとつ大きな欠伸をする。

 のそのそと立ち上がり和室の障子を開けば、広がるのはリビング。木の葉隠れと砂隠れの家の造りを見事にあわせた一軒家。

 リビングではテレビの前のソファに座り、腕の中に居る小さな生命をあやすように、優しい声でサクラが歌っていた。

「木の葉のか」
 なにが。主語が抜けていたな。と思っていたがどうやら意思は通じたらしく、サクラはコクリと頷き微笑んだ。

「そう、木の葉の子守唄。私も小さい頃によくお母さんに歌ってもらってたの」

 サクラの腕の中で小さく眠るその命。ぐずぐずと眉間に皺を寄せ、口が波を打ったと思えばそれはそれは、家の中に雷を落とすように泣き叫ぶ声がリビングに響き渡る。

「あらあら」
 ほんの少しだけ困った表情で、サクラが眉を下げて笑う。小さな背中を優しく撫で、歌を紡げば意図も簡単に泣きやんでしまった。

「……お前は、母親が好きだな」
 サクラの腕の中を陣取っている、自らの血を分けたその存在に視線を向けた。ぷにぷにと柔らかい頬をつっつけば、むうと唸るような声を出し口をへの字に尖らせる。

「ふふ。あなたの血を分けてるからね」
「そうか……」

 クスクスと肩を震わせて笑うサクラに「そうだな」と納得するしかなかった。

 サクラも、サクラの腕の中で懸命に手を伸ばしてくるその存在も、なんて愛しくて仕方がないのだろうか。


2015.9.1
愛おしき