砂サクパロ。



「我愛羅くん!」



 穏やかな日中。
資料室から出た途端、名を呼ばれ顔を上げればにこりと笑う顔が一つ。
砂漠に咲かぬ花の名の少女の名を久方ぶりに呼んだ。

「サクラ、来てたのか」
「うん! 火影様の使いで医療使節団として暫く滞在する事になったの」
 よろしくね! と笑うサクラに少し目元を細めた我愛羅はコクリと頷いた。

 和やかな空気を裂くように突如として現れた男。
顔を顰めサクラの姿を認識すると小馬鹿にしたように笑みを零す。

「なんだ、うるせぇと思ったら小娘……来てたのか」
「むっ……」

 小娘。と言われたことが気に入らないのかサクラは眉をきゅっと吊り上げ口元を歪ませた。
「何よ! 来ちゃ悪いっていうの!」
「はぁー、お前のような小娘が医療忍者の使節団としてくるなんて木の葉は大丈夫か?」

 赤髪の男、傀儡部隊隊長の赤砂のサソリ。
サクラの事を馬鹿にするような態度に我愛羅はほんの少し肩を落とす。
相も変わらず素直にならん男だな。そう思ったのも束の間、我愛羅自身もサソリの事は言えんかと自分自身に言い聞かせた。

「アンタなんかねー、チヨ婆様の孫でもなかったら傀儡隊部隊長なんて出来ないんだからね!」
「ババアは関係ないだろ!」

 いー! と歯を見せるサクラにサソリは食って掛かる。
人通りは少ないとは言え、風影の塔の廊下には変わりない。

「…顔を合わせると直ぐ喧嘩をする。相変わらずだな」
「うるせぇよ! 俺が悪いわけじゃねぇ!」
「なんですって! どう考えてもアンタが悪いでしょう!!」

 顔を真っ赤にさせながら憤慨するサクラに「落ち着け」と言えば「どっちが悪いと思う!?」と問い詰められ思わず言葉に詰まってしまう。
サクラの翡翠色の瞳の奥が燃えるような意思を持つ。助けてくれ。そう思えば願いが通じたか「サクラ!」と呼ぶ声が聞こえた。

「こんな所に居たのか、呼ばれてるよ。……ん、サソリに我愛羅、何してんだ」
「テマリさん! カンクロウさん!」

 サクラを探していたのか、テマリはチヨ婆様が呼んでいるよと伝言を伝えればサクラは頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「いーえ、どういたしまして」

 女二人、にこりと会話をする横でカンクロウが我愛羅とサソリに視線を向けた。

「お前等いい加減にするじゃん……」
「うるせぇ!」
「俺は何もしてない」

 カンクロウの言葉に反論するように我愛羅とサソリは言葉を吐く。
それを見ていたサクラが「あ!」と声を上げる。

「カンクロウさん! なんでサソリの事尊敬してるんですか!?」
「はぁ?」
「おい! 小娘どういうことだコラ!」
「だって……!」

 信じられない! と言った視線をサソリに向けたサクラを見てカンクロウは首を傾げた。
「あ、いや……傀儡師としては尊敬してるじゃん……」
「カンクロウ、お前いい度胸してるな」
 ひくりと口元を歪めたサソリが今にもカンクロウを殴ろうとするのを見てテマリが「いい加減にしろ!」と一喝した。

「ほら! サクラもさっさと行く!」
「はーい! あ、テマリさん後で一緒にご飯行きましょう!」
「ああ、後で行こう」
 ぱたぱたと廊下を走っていくサクラの背を見届けてくるりとテマリは振り返る。


「いい加減にしたらどうだ」
「何がだ」
「サソリが悪い」
 サソリと我愛羅の言葉にテマリは、はぁと溜息を吐いた。

「テマリ、食事は一緒にいく」
 一方的にテマリに言い放ちサクラが歩いて行った方向へ我愛羅は足を進める。
抜け駆けは許さんとその後をサソリが追う。

「我愛羅、ズリィぞ!」
「日頃の行いを悔い改めろ」
「てめぇ…俺も行く!」
「迷惑だ」

 二人の押し問答を眺めていたテマリは額を押さえながらもう一度溜息を吐いた。

「いい加減にしろ」
「テマリ……諦めるじゃん」




 空は快晴。穏やかな日中。
少しだけいつもより煩い日常が始まる。



2014.09.03
君と僕ら