ピーヒョロロと頭上高く飛ぶのは渡り鳥。
砂漠の暑さにも負けず大きな翼を広げ緩やかに飛んでいく。
カラリと晴れる青空に流石に暑いな。我愛羅は思うが言葉には出さなかった。
「来たか」
バキに呼ばれ我愛羅達は里内に設置された古びた温室の前に呼び出されていた。
「来たかじゃないよ。一体なにするのさ」
テマリの問いかけにバキは温室を見上げ、中に入れと促した。
「お前達に今から、この温室の掃除をしてもらう」
荒れて、枯れている草花。
不要な雑草が次々と生え、長年誰も手を加えていない温室にテマリとカンクロウは顔を顰めた。
「はあ? なんで私達が……」
「そうじゃん、もう使ってないだろここ。何で今更」
温室内を見渡し声を揃える二人に、バキは無言で温室を見渡していた我愛羅を一度だけ見て視線を上げた。
「ここは生前、加瑠羅様がとても大切にされていた場所でな」
荒れ果てた温室内を眺め、言葉を紡ぐバキにテマリとカンクロウは口を閉ざす。
「加瑠羅様の死後、夜叉丸が手入れをしていたんだが……夜叉丸が亡くなった後誰も手を付けていなくてな」
「……そうか」
バキの言葉に頷いたのは我愛羅。
立ち尽くす二人を置いてずんずんと奥に足を進める我愛羅にテマリとカンクロウは顔を見合わせた。
枯れている花を無造作に引き抜き我愛羅は目前まで持ち上げ内心呟いた。
(……正直わからん)
それが触れていい花なのか、毒草なのか。
皆目検討つかない我愛羅は眉間に皺を寄せ首を傾げた。
「それは毒草で、こっちは安全だ」
腰を下ろしてもくもくと作業をしていた我愛羅の隣に、同じように腰を下ろしたカンクロウが
我愛羅が持っている枯れた草を見て取り上げる。
「なんで知ってる」
怪訝な顔をして見てくる我愛羅にカンクロウは暫し考えてにやりと笑う。
「傀儡師だからな、毒は扱うじゃん」
「……生意気だな」
「ああ!?」
多分、それは一歩。
互いに歩み寄ろうと、歩み寄りたいと願った結果であったのだろう。
弟二人の後ろ姿をぼんやりと見ていたテマリは、何故だか熱くなる目頭を乱暴に拭った。
「この温室は、四代目様が加瑠羅様に贈った温室だ」
「親父が……?」
視線を持ち上げたテマリの横に隣に立つバキは頷く。
「この土地で中々咲かぬ花達をいつか生まれてくる子供達に見せたいと言っていたそうだ」
お前達三人に見せることは叶わなかったがな。
ポンとバキの手がテマリの頭を撫でればくしゃりと笑う。
「いいさ、ここは私達が花を咲かせればいいんじゃないか」
バチン! とバキの背を乱暴に叩き、なにやら若干言い争いをしているカンクロウと我愛羅の元までテマリは走る。
「なに男だけで盛り上がってんだ!」
「ぐえ!」
カンクロウを鉄扇と共に押し潰すように体当たりをするテマリに我愛羅は目を見開きパチパチと瞬きを繰り返す。
「なにすんだ!」
「鈍いんだよ!」
べしゃりと潰されたカンクロウが地面から顔をあげ抗議すればテマリは腹を抱えて笑った。
「……いいかげんに、」
目の前で行われる事に驚きながらも姉と兄である二人を止めようと声を出す我愛羅だったが、
カンクロウが驚いたように、見てみろ! と二人を手招きする。
「いったいなんだと……」
「これは」
三人が覗き込んだのは枯れた草の根元。
小さく存在を主張するのはサボテン。
とても小さかった懸命に太陽の光を浴び、荒れ果てた温室で唯一花を咲かせていた。
「……綺麗だな」
じっとサボテンを見ていた我愛羅がぽつりと呟いた言葉。
「ああ!」
「おう!」
テマリとカンクロウは顔を見合わせて笑い合う。
それが気恥ずかしくて少し視線を下げる我愛羅の視線に、サボテンの花が微かに揺れたように見えた気がした。
ぐううと響くは腹の音。
我愛羅とテマリが音が聞こえた方を見ればカンクロウが腹を押さえ座り込んでいた。
「とりあえず、メシにしようぜ。腹減った」
再度、盛大に腹の音が鳴ればテマリはガクリと頭を落とし額を押さえた。
「仕方ない、先にご飯を食べよう。その後三人でここを片付けるぞ」
「ああ、そうだな……」
テマリに同意した我愛羅が頷きその場から立ち上がる。
三人で。
さり気なくテマリが言い放った言葉。
それがどれ程、嬉しくて、心が喜んで、涙を零しそうになったかはテマリもカンクロウも知らない。
知らなくていい、知る必要もない。
不器用に伸ばした手を、二人はしかと受け止めてくれたのだ。
「バキ!」
「どうした」
三人のやり取りを眺めていたバキは穏やかに表情を崩す。
「メシ食ってから作業再開だ」
「ああ、了解した」
穏やかに笑う三人に四代目にも加瑠羅にも、夜叉丸にもこの姿を見てもらいたかったと叶わぬ願いを募らせた。
互いに憎み、苦しみあい、絡まった糸がするりと解けていくような。
穏やかな感覚にただ、ただ笑い合っていた。
枯れない愛が、彼等を優しく包んでいる。
26.11.3
※サボテンの花言葉 枯れない愛