何でこんな事になったのだろうか。
鏡を目の前に椅子に座らせられたサクラは化粧道具を手に持ちニコニコ笑うカンクロウに何も言えなかった。







「顔色が悪い」
 ある日の非番、疲労と目の下に若干出来た隈を隠す事も出来ずに大きな欠伸をしているところに投げかけられた言葉。
眉を吊り上げたカンクロウはサクラを見て開口一番にそう言った。

「カ、カンクロウさん……居たんですね!」
 恥かしげもなく大きな欠伸をしていたのを見られてしまった。
そう思ったサクラだったがカンクロウはそんな事を特に気に留めてない様子でサクラの右手首をパシリと掴む。

「こい、その顔色はあんまりだ」
「え、えええ!」

 腕を掴まれたサクラはカンクロウに腕を引かれるまま風影の塔を歩いていく。
隈取姿ではないカンクロウの後姿をぼんやりと眺めながらサクラは無言で着いけばとある一室に案内された。


「ここなんですか?」
「ああ、化粧室。色に出るくの一や俺みたいに隈取する奴等が利用してる部屋だ」
「へー……」

 カンクロウの説明にぐるりと室内を見渡せば、まるでそこは舞台の楽屋裏のようで衣装だったり傀儡だったり、
その他何に使うのだろうかと考えるようなボールやフラフープ等が無造作に置かれていた。

「ほら、コッチ来い」
「え?」

 大きな化粧台の前で手招きをするカンクロウにきゅっと眉を下げたサクラはまさか! と思う。

「化粧ですか……」
「少しは隠す事をするじゃん」
 ほら、とヘアバンドを付けられ露になる額をみて思わず口をへの字に曲げる。

「テマリといい、サクラといい……もう少し肌に気を使うじゃん。お前すげぇ荒れてんぞ」
「仕方ないじゃないですかぁ……連日の任務でもう化粧なんて。大体化粧嫌いなんですよ」

 変味するし。べぇと舌を出してぎゅっと顔を顰めるサクラにカンクロは、はいはい。と言いながらサクラに化粧水を手渡す。

「ったく……もう少し気遣うかと思ったが……大人しくしろ」
「うー」

 目をギュッと閉じたサクラを見て遠慮無く下地を薄く塗りファンデーションを薄く塗っていく。
それがくすぐったいのかサクラは肩を揺らして笑いながら身じろげば、カンクロウが呆れたように「おい」と言葉を落とす。

「ほら、サクラ動くなって言ってるじゃん」
「うー……慣れないんですよ化粧って……」
 目を瞑ったまま笑うサクラに薄く薄くアイシャドウと頬紅で色付かせれば先程よりも血色のよい顔色。
うん、とカンクロウは満足いったのか頷いて、化粧台の引き出しを開け少し悩んで真新しい口紅を取り出した。

「えー口紅ですか、変な味が……」
「だから食べるなって……」

 筆に紅を取り色を乗せていけば薄いピンクに染まるサクラの唇。
うんうんともう一度頷いて、ブラシを手に取りサクラの髪を整えれば「さすが俺。完璧じゃん」と自画自賛した。


「うし、出来た!ほら鏡見てみるじゃん。いつもより可愛い」
「あ、ありがとうございます…」

 サクラの肩にぽんっと手を置き鏡の中のサクラを見てカンクロウは笑う。
その姿を鏡越しに眺めサクラもにこりと笑えば鏡の中の自分もにこりと笑った。

「カンクロウさん化粧上手いですね」
「まーなー。たまにテマリの髪も結ってやってるんだぜ」
「そうなんですね!」

 まぁ、なんと仲のよい事か。
サクラはそう思い鏡に視線を向け見てもう一度にこりと微笑んだ。

 たまには、お洒落してもいいよね。
ほんの少し置いてきた『女の子』の自分が笑った気がした。



薄紅



 微笑ましく談笑する二人をそっと扉の隙間からのぞき見る瞳。

「くそ!カンクロウのヤツめ…!サクラに化粧してあげるなんて羨ましい!私がサクラに化粧したい!」
「くそ…無駄に手先が器用だからな…カンクロウめ…」

 肩を震わせぐぬぬと口元を歪めたのはカンクロウの姉のテマリと風影であり弟である我愛羅の姿があった。
そんな二人を遠巻きに見ていたバキとマツリは顔を見合わせ笑った。


2014.09.03