「今日は外に出ないほうがいい」

 起きて早々、言われた言葉に首を傾げどうして? と問えば、
今日は里全体、警護の者以外全員極力家から出ないようにとの事らしい。

 いつもカラリと焼けるほど暑い太陽が、顔も出さず薄暗い空が広がっている。
言われたとおり、ぼんやりとリビングから外を眺めていたら、空から何かが降ってきた。

「……雨?」

 ソファから立ち上がり、窓際に近づいて空を見つめる。
鼠色をした空からシトリシトリと雨が降っていた。

「降ってきたか……」
「我愛羅くん」
 自室から出てきた我愛羅がサクラの隣に立つ。
少々顔を顰めていたので、雨は嬉しいのではないのか。と疑問に思い口を開いた。

「雨は、嬉しくないの?」
「ん、ああ……嬉しいさ、嬉しいが……」
 降り続ける雨を見ながら我愛羅は目元を少し細め、悲しそうな表情をする。

「風隠れは雨が少ないからな……都や大きな街は水路など設備が整っているんだが、
砂隠れも含め、整っている場所のほうが少ない」
「……なるほど」
 と言うことは降った雨は、流れず地面に溜まる可能性があるということか。
 顎に手を当てサクラは隣に立つ我愛羅を見上げる。
「整備をしようにも降水量もそこまで多くない。そこに莫大な金額をつぎ込む事も難しい」
「確かにね……砂隠れだけの問題じゃないものね、国が絡んでくるのね」
 ああと頷き、それと。と言葉を続けた。
「砂漠の地を繋ぐ巨大な交通路があるだろう」
「あるわね、あの平らな道」
 風の国に存在するいくつもの平らな道。
その道を通り隣の町へと行き来したりするのだ。

「あれは本来川なんだ」
「川……!?」
 ただの交通路だと思ってた道が川だと知り、背筋がゾクリと震える。
「雨期の一時的な豪雨の時に、流水が現れる。時に死傷者が出る時もある」
「そうか、水の事故も多いってわけね」
 何とかできるものなら何とかしたい。
だが相手は自然だ、そして中々降る事の無い雨水。

 事故を防ぐならば、まだ整えられた里からなるべく出らぬ事。

 嫁いだ土地は知らぬ事が山ほどある。
こうやって我愛羅を筆頭に周りの人達から学ぶ事はとても多い。


「まあ、そう言ってもそこまで降らなければただの休暇だがな」
「そりゃそうだけど……」

 ソファに腰を下ろし、テレビのチャンネルを変える我愛羅。
ぱたぱたと歩き、我愛羅の横に腰を下ろしたサクラはスリッパを脱ぎ膝を抱える。
我愛羅に背中を預ければ腰に腕を回し、抱き寄せられた。

「ねぇ、我愛羅くん」
「なんだ」

 パチリパチリとチャンネルを回すが、これと言った番組も無く。
手に持っていたリモコンをテーブルに置けば、サクラがぐいっと体重を預けた。

「私さ、砂隠れの事、まだよく知らないの」
「ん?」
 サクラの顔を覗き込めば、眉をきゅっと上げ真剣な瞳をしていた。
「だから、色んなことを教えてね」
 真剣な声色のサクラの頬をぐにぐにと掴み、我愛羅は目尻を少し細めた。

「ああ、少しずつ覚えてくれたらそれでいい」

 育ってきた環境が違うのだ。
知らぬことが多いのも当たり前、それでもこの土地を愛し、この土地で共に生きていくと誓ったのだ。

 互いの体温が、ただ心地良かった。



2015.我サク独り祭り
06. 雨の休日の過ごし方
07. それでも溢れる独占欲