「風影様、風影様!」
野太い声で呼ばれ、視線を向ければ果物屋の親父がニカリと笑いながら我愛羅を呼んでいた。
「随分と機嫌がよさそうですね」
「ああ、分かるかい! やっぱ風影様だなー!」
わははは! と豪快に笑い、果物屋の親父がバンバンと我愛羅の背中を叩く。
バンバンと叩かれる振動に我愛羅はただ、耐えた。
「さっきサクラ様が来てくれたんですよ」
「……サクラが?」
そう言えば、と思い出す。
よく市場の者達からおすそ分けを貰うと。
我愛羅自身も市場を通れば、店主や女将など色んな者達から押し付けるように貴重な食材を貰うのだ。
「そうだ、妻共々お世話になってます。ありがとうございます」
深々と頭を下げる我愛羅に、果物屋の親父は目をぎょっとさせる。
「いやー! なに言ってんですか! 風影様とサクラ様が市場に来てくださるだけで活気付くってもんですよ!」
お二人には感謝しかないですよ! とまた豪快に笑う果物屋の親父に我愛羅も口元を引き上げ笑う。
「おや風影様とクソ親父じゃないかい」
「あーん? クソババア何してんだ」
市場を取り仕切っている、ふくよかな婦人と果物屋の親父が口悪く言い合いをする。
思わず目を丸くする我愛羅は、目の前で火花を散らす二人を止めようと右手を上げた。
「風影様、やめておきなよ」
「いつもの事だから気にしなくていいんすよー」
市場で働く若者達の声。
そうなのか、いいのだろうか。と交互に見渡せば市場の者達は顔の前で手を振ったり、肩を竦めたりしていた。
「それより風影様、サクラさん市場回ってもう帰るって言ってましたよ」
「そうか、ありがとう」
一人の親切な若者が、サクラが向かった方向を指差せば我愛羅が礼を述べ歩いていく。
「いいよな、風影様とサクラ様」
「サクラ様と結婚されて、風影様お話ししやすくなりましたよね」
にこやかに話す若者達に、婦人と親父が会話に割り込んだ。
「おー確かにな、丸くなった感じだよな」
「そりゃーアンタ、あれだけサクラ様から愛情たっぷり貰ってるんだ、風影様も丸くなるよ」
「……愛か」
「愛だね!」
豪快に笑う二人に、市場の若者達も釣られて笑った。
「サクラ!」
「あれ? 我愛羅くん」
まさか市場に我愛羅がいるとは思わず、サクラは思わず瞬きを繰り返す。
「肩の荷物を貸せ」
「え」
まるで米俵を持つように、肩に荷物を乗せていたサクラ。
その荷物を奪い取った我愛羅に、サクラは思わず笑ってしまう。
「いいのに、持てるのに」
「いい、持って帰る」
一度言い出したら意外と頑固な所がある我愛羅だと理解していたサクラは「じゃあ、お願いしようかな」と微笑んだ。
歩く二人の背中を、見ていた者達がにこやかに笑っている。
2015.我サク独り祭り
08. 途中まで一緒に
→
09. 今日は僕が(私が)作るよ