R-18





 切欠はなんだっただろうか。
 戦争の爪痕が大きく残った世界。

 五代目火影である綱手の意思により木の葉の医療忍者を各里に派遣させたのが切欠だったのだろう。
 戦争の影響で各里復興への道のりは、それはそれは大変なものだった。

 人手不足というのはあるが、各里抜きん出ているところで助け合おうという話に至ったらしい。
 綱手の命によりサクラは砂隠れに医療使節団として派遣されるようになったのだ。
 正直サクラにとって、風影である我愛羅やテマリ、カンクロウと顔見知りがいる事に安心していた。

 サクラは元来、人付き合いが得意な方ではないのだ。
 いのとの出会いを期に変われたとサクラは言うが、いざ一人で見知らぬ土地に行くとやはり緊張してしまう。
 幼い頃のサクラが顔を出してしまうのだ。

 使節団の隊長として風影と対面した時に我愛羅は「よろしく頼む」と深々と頭を下げた事に驚き、
「こちらこそよろしくお願いします!!」と土下座をしそうな勢いだった事は記憶に新しい。

 我愛羅は元々気遣いなのであろう。
 影として、というのもあるかもしれないが時間が有ればサクラのところへ顔を出していた。

 多分、サクラの手を取ったのは我愛羅から。
 それを受け入れたのはサクラ。
 
 二人の変化に最初に気がついたのはテマリだった。
 我愛羅とサクラがひっそりと育んできて約一年が経とうとした時だったのだ。
サクラはテマリになんと言われるか、少し怖かったが「アンタでよかった」と言われた時には思わず涙腺が滲んだ事を思い出す。
 




 コンコン

 聞こえた扉の音。
 与えられた部屋の机で突っ伏していたサクラはゆっくりと顔を上げる。
「ん、寝てた……」
 椅子から立ち上がり扉をガチャリと開けた。

「……寝てたのか」
「うんん、大丈夫」
 扉の前に立っていたのは我愛羅。
 我愛羅の姿を見て、眉を下げサクラは笑う。

 我愛羅を室内に招き入れ適当に椅子に座らせた。

「お茶でいい?」
「何でも構わん」
 備え付けの簡易冷蔵庫から冷やしていたお茶を取り出しグラスに注ぎ込む。
 その後姿を我愛羅はジッと見ていた。

「どうしたの?」
「いや……もう風呂に入ったのか」
「うん、今日はもうする事終わったし。明日の準備ももう終わったから」
 サクラの返答に、そうか。と一言返し受け取ったお茶に口を付けた。

 完全に乾ききっていない髪、サクラ自身から香る甘い香り。
 我愛羅の神経を擽るのにはそれだけで十分なのだ。

「サクラ」
 通るような我愛羅の声。
 テーブルを挟んで向かえに座ろうとするサクラの名を呼ぶ。
「ん?」
 手招きをして目の前にサクラを立たせ、サクラの手を取った。

「明日までだな」
「そうね、何だかんだで三ヶ月はお世話になったわね」
「……ずっと、ここに居ればいい」
 サクラの右手を取り、手の甲や指の間に口付けを落としていく。
「なに、それ。まるでプロポーズみたいよ」
 くすくすと笑うサクラを見上げ、それもそうだなと我愛羅は思う。

「そうとってもらっても構わん」
「何〜それ、雰囲気も何もないじゃない」
 笑うサクラを他所に手首にも口付けをし、サクラの腰を抱き寄せた。
 膝の上にサクラを座らせ上着の裾から手を入れサクラのお腹を撫でた。

「では、改めてプロポーズをしよう」
「宣言するの?」
 サクラの言葉に、むうと唸った我愛羅だったがサクラの翡翠の瞳に見つめられ考える事をやめた。

 サクラの頬を撫で、唇を親指でなぞった後口づけをした。
 





 シーツに埋もれ、自分の下で涙目になりながら乱れるサクラに、正直我愛羅は興奮していた。
 幼い頃、人を殺め、自分の存在を確認していたような感覚を思い出す。
 サクラの白くて細い首。
 手を掛ければ簡単に折れてしまいそうだと我愛羅は思う。

 汗ばった首筋に唇を落とし、痕をつける。
 くすぐったそうに身を動かすサクラに目を細めた。


「ん、我愛羅君」
 浅く息を吐き、我愛羅の名を呼ぶサクラ。 
 首筋から降りて、鎖骨にチクリと走る甘い痛み。
 やわやわと、大きくない胸を揉まれ顔を赤く染めるがそんなサクラの気持ちなどつゆ知らず、
我愛羅の舌が肌を滑る感覚に背中がゾクゾクと震える。
 谷間を軽く噛まれたかと思うと先程より強い痛み。
 
 右の胸元につけられる痕。
 まるで、心臓にキスをされた感覚に陥った。

 サクラは願う。
 このまま、我愛羅に殺されたのならばなんて幸せなのだろうかと。
 
 いつか、目の前の彼と別れが来るときがあるだろう。
 それはそう遠くない未来だ。
 
 我愛羅はきっと、自分とは違う誰かと共に生きていくだろう。
 それは例え我愛羅が望まなくとも。
 だけど、我愛羅はきっと嫁と迎えた女性を愛するであろう。

 だって、我愛羅は本来は優しくて真面目だ。
 砂隠れの正当な血筋の女性を受け入れるだろう。我愛羅も納得するはずだ。

 じわりと滲む涙。
 泣き虫な自分が嫌いだとサクラは思う。

「サクラ」
 我愛羅の声に視線を向ける。
 綺麗に伸びる首のラインに案外逞しい体。いつまで経ってもサクラは慣れなかった。
 例え毎日のように肌を合わせていても。

「他所事を考えるな」
 まるで見透かすような我愛羅の言葉に、サクラは心臓がひやりとする。
 
「あっ、う、んんんん!!!」
 体内に侵入してくる感覚にサクラは思わず声を上げる。
 ばらばらと動かされる指とぐちゅり、ぐちゅりと響く音。
「は、あぁ、や……!」
 堪っていた涙がぼろりと零れ落ちた。

「ま、待って、待って! 我愛羅君!」
 サクラの静止の言葉に我愛羅が手を止める事はせず、ぼろぼろと零れる涙を舌で掬い取る。
 ぐちゅぐちゅとサクラが体を震わせる敏感な箇所を何度も何度も摩った。
「ひっああぁぁ、あ、んんん!!」
 口を両手で塞いだサクラはガクガクと体を震わせ、痙攣させた。

「……っあ……」
 虚ろな目で天井を見つめるサクラに、無意識のうちに自分の下唇を舐めた我愛羅。
 サクラの膝に手を掛け、白い右足を持ち上げた。
「だ……駄目、我愛羅君」
「何が」
 我愛羅を押しのけようと咄嗟に両手を伸ばしたサクラ。
 
「だって、ゴム、してない」
 ゆらりと揺れるサクラの瞳に我愛羅は一瞬何かを言おうとして息を吸った。
「我愛羅、く、ん?」
 じっと見つめてくる我愛羅にもう一度サクラは名を呼んだ。

「嫌だ」
 まるで、幼子が言うように。
 いつも凛として、何食わぬ顔している目の前の男の言葉にサクラは驚いた表情をする。
 右足を持ち上げられたままの格好で、サクラは我愛羅を見つめた。
「嫌だといったんだ」
 無い眉を吊り上げるかのように我愛羅は眉間に皺を寄せた。

「え、嘘! 待って、我愛羅君!」
 もう片方の足も持ち上げられると、ゆっくりと我愛羅自身がサクラの中に入っていく。
 ヌプリと音を立てて入っていく熱を持ったそれにサクラは快楽と戸惑いの間に挟まれていた。

「あぁぁ」
 ゴムをつけてない直接挿入される初めての感覚にサクラは声を上げた。
 ぬるぬると入れられただけなのにサクラは無意識に中をぎゅうぎゅうと締めつける。
 ダイレクトに伝わる我愛羅の熱にどうすればいいか分からずサクラは目を瞑った。

「サクラ、力を抜け」
 少し、呼吸が乱れる我愛羅の声にサクラはふるふると首を振る。
「む、無理ぃ……!」
 シーツをギュッと掴み呼吸をするサクラ。
 はぁ、と浅く息を吐いた我愛羅は更に奥まで押し進める。
 快楽に耐えるようにガクガクと震えるサクラに我愛羅自身が呑まれそうだった。

 まずい、ハマリそうだ。
 脳内で我愛羅は呟く。

 顔を真っ赤にしながら、両足を開き耐えるサクラの姿に我愛羅はこんな姿を誰にも見せたくない。
 このままどこかに閉じ込めてしまいたいと思ってしまった。

「動くぞ」
 聞こえてなさそうなサクラに我愛羅は一応忠告だけする。
 一度腰を引いて、もう一度奥まで挿入すれば、サクラは声を上げた。

「あっぁぁ! 無理! やだ、やだあぁぁ」
 泣きじゃくるサクラに我愛羅は両方の掌を合わせた。
 
 声では嫌だといいつつも体は快楽に溺れていく。
 サクラは戸惑いと恥ずかしさと、不安で心がいっぱいいっぱいだった。

 行為中はいつだって我愛羅はサクラを甘やかしてきた。
 サクラが泣いて嫌だと言えば決してしようとしなかった。
 抱きしめてと言えば抱きしめて、キスをしてと言えばキスをくれた。
 
 だからこそ、サクラは今日の我愛羅が別人のようで怖かった。
 我愛羅のことを全て理解しているわけはないと思っていたが、少しばかり近づけたと思っていた。
 ドロドロに甘やかす我愛羅しか知らない。
 サクラはほんの少し、心臓にチクリと甘い痛みを覚えた気がした。

 ぐいっと細い腰を掴み我愛羅はサクラの体を抱き起こす。
 ぬるりと更に深く刺さる感覚に、サクラはもう駄目だった。
「いやぁ、もうやだ…ああぅ…!」
 逃げようとするサクラの腰を掴み、決して離さない我愛羅。
 涙を流し、涎を垂らしながらはしたなく喘ぐサクラ。
 ぐちゃぐちゃと快楽に落ちていくサクラに我愛羅は噛み付くようにキスをする。
 その瞬間、いつも以上にぎゅうぅと締め付ける膣内。
 我愛羅に抱きついたサクラは本日二度目のオーガズムに達した。
 サクラが達するのと同時に、我愛羅も自分の欲望をサクラの中に吐き出していた。
 
「……はぁ、はぁ」
 サクラの肩に額を乗せ呼吸を整えるように息をする我愛羅と、自分の中に吐き出された我愛羅の精子の熱さに
どうしていいか分からなくて、サクラはただ、我愛羅にしがみ付くしかなかった。

「が、我愛羅君……中に……」
 子宮に吐き出された熱を感じ、顔を真っ赤にしながら未だに抜いてくれない我愛羅に戸惑いを隠せないサクラ。
 サクラの肩をガバリと掴み我愛羅は真正面からサクラを見た。

「出した」
 恥じらいも悪気も無いその言葉にサクラは口をパクパク動かし言葉を探す。
「もう、いいだろう」
「え」
 我愛羅が何を言っているか分からずサクラはきょとんとした。
 泣き腫らしたサクラの目尻を親指で擦る我愛羅。

「俺はお前以外を嫁に貰うつもりはないし、お前を他の男にやるつもりもない」
「え、えぇ……?」
「子を生してしまえば、サクラは逃げる理由がなくなるだろう」
「どう、いう……ぅんん!」
 事だと我愛羅に問おうとすれば我愛羅がサクラを押し倒す。
 そう言えば、まだ中に入ったままだというのをサクラは思い出した。

「俺から逃げるな」
 我愛羅の射る様な目にサクラはビクリと肩を震わせる。
 幼い頃、一度だけ対峙したことを思い出してしまった。

「血族や、血筋なぞ関係ない。身分がなんだという同じ忍ではないか」
 それは我愛羅にとって都合のいい解釈。
「なんで」
 その事を突然言い出すのか。
 眉を下げ、見下ろす我愛羅をサクラは呆然と眺めるしかなかった。