パタパタパタと廊下を走る音。
 部屋の前で立ち止まったその気配に顔を上げた。

「ハル、開けるよ」
 聞こえてきたのはこの遊郭の受付の女の声。
 返事を待つ前に、スッと目の前の襖が遠慮なく開け放たれてしまった。

 乱れた髪や服を辛うじて整えていたサクラは正座をして我愛羅の隣に座り、顔を上げた。
襖を開けた受付の女を見上げていた。

 数回瞬きをした受付の女は煙管を加え、ニヤリと笑った。 
「お盛んなのは良いこった。だけど避妊はちゃんとすることだね」
 女の言葉に我愛羅はほんの少しだけ心臓がドキリと跳ねた。

「あ、あの! それよりもどうしたんですか」
 少し頬を染めながら、話題を逸らすようにサクラが問う。
その問いに、そうそうと受付の女はふー、と煙を吐き出した。

「例の男がお偉いさんを連れて来た」
 女の言葉にサクラは眉間に皺を寄せる。
「ここで、逃したらきっと二度とチャンスはない」
 サクラと女のやり取りを傍観していた我愛羅は小さく溜息を吐く。

 自分の心配が、ただの杞憂だといいと我愛羅は心の中で静かに呟いた。





 店一番と言われる太夫の元へ案内された大名の顔は厭らしく笑っていた。
 第三の目で大名の男と、昨日のビンゴブックに載っている男の姿を確認し術を解除する。
人の情事を見るような趣味はない。
 我愛羅は隣にいるサクラに視線を向けた。

 じっと真剣な表情で隣の部屋の壁を睨みつけるサクラの腕を引き、我愛羅はサクラの耳元で呟いた。
「あまり殺気立つな」
 我愛羅のその言葉に、サクラは少しだけ息を詰め肩から力を抜く。
 コクリと小さく頷いて少し眉を下げサクラは笑う。
「うん、ごめん」
 へらりと笑うサクラだがその心中は穏やかではなかった。
 任務は勿論のことだが、つい先程肌を重ねた相手が真横に居るという事。
 忍としてどうだろうかと思うが、サクラはそう簡単に割り切れるほど気持ちの切り替えが上手くはないのだ。
 サクラの中を気恥ずかしさが閉めていた。
 

『そうだなぁ、特別に教えてやらん事もない』
 大名の少し大きな声が聞こえた事に我愛羅とサクラは顔を上げる。
『あら、嬉しいわぁ。それは何処に行けば手に入るんですの』
 この遊郭一の太夫が情報を引き出す為、大名に問う。

『特別に教えてやろう。霧隠れの今は使われていない港町だ』
『霧隠れ?』
『ああ、山間にある小さな港町だ。先の忍界大戦で閉港してな。
なーに、これ以外にももっといいヤツが山ほどあるぞ。欲しけりゃ安くて売ってやろう』
『あら、おおきに。それじゃぁ今度その薬、買わせていただこうかしら』
 くすくすと笑う太夫の声が大名から情報を引き出していく。

 女の色香の前では、男はこうもなし崩しになってしまうのか。
 そう思うと我愛羅は、ただ嫌悪感しかなかった。