薬に溺れた者を捕獲するのは容易い。
 しかしこの件にこれ以上首をつっ込むのも正直如何なものかと考える。
 サクラさえ戻ってくればそれでいい。
 そう考えたが、ぞくぞくと現れる気配に我愛羅は小さく溜息を吐いた。

「貴様、ここで何をしている」
 数人の抜け忍を従え現れたのは、水影から各影に伝えられた大名の姿。
 小太りで厭らしく、にやにやと笑っていた。
「ワシを誰だか知っているのかのぅ。水の国の大名と知っての行動か?」
 大名の言葉にサクラが反応し、我愛羅の腕を掴んだ。
「貴方の、素性がばれると戦争になりかねないわ……」
 首を横に振るサクラ。その瞳は訴えかけていた。
 眉間に皺を寄せ大名を見た我愛羅。
 その顔を見て大名はニヤリと唇を引き上げた。

「お主を知っておるぞ。確か……砂隠れの風影だったか?
何故その様な者が吉原に居るのか……そして水の国の大名であるワシの敷地内に無断で侵入し、
更にはその所有物である女を連れ去ろうとするとは、これはどう説明をつけてくれようか」
「俺をおびき寄せる算段か……」
「ふん、たかが小娘一人に惑わされるお主が愚かなだけだ。
まぁいい。その女も元は悪くない、高く売れるだろう。だが、お主はどうだろうな。大名裁判にでも掛けるか」
 サクラが我愛羅を掴む手に力が入る。
 我愛羅は視線を落としサクラを見て、笑った。

「裁判に掛けられるのはお前だ」
「馬鹿な事を!」
 我愛羅の言葉に声を荒げる大名。
 数人の忍達が武器を構え、印を結ぶ構えを取った。
「吉原にお前と繋がる内通者が居たかどうかは俺は知らん。
だが、お前が起こした行動は今頃、各里の影達が大名達に報告しているだろう」
 我愛羅の言葉にサクラは目を見開いた。

「どういうことだ!!」
 大名の取り乱すみっともない声が辺りに響く。
「昨夜、水影に其処の忍の所在報告済みだ。お前は知らないかもしれんが、その忍は
各国大名はその男を危険人物と判断している。そして、お前の行動も全て大名達に筒抜けとなっている」
「なん、だと……!?」
 
 ゆらりと揺れたサクラの瞳に、我愛羅はすまない。と謝った。
 里の影同士の決まり事。それを易々と話せるはずもない。
「お前の地位も剥奪されるだろう。各国の大名達も吉原に手を出したとなれば黙っては居ないだろう」
「くっ……だが、お前達を此処で始末すればそれも叶わぬだろう!」
 大名の声に忍達が一斉に動き出した。

 地面に掌をつけチャクラを流し込む。
 ドンッ! と砂が地面から噴出する。
 それに気を取られた忍達の動きが一瞬止まった。

 我愛羅には十分すぎる時間。
 砂で忍達を次々と拘束する。
 それを見た大名が逃げ出そうと背中を我愛羅に向けた。
「逃がさん」
 腕を前に出し大名を捕らえようとした瞬間、突如頭上から現れる人物にその場で砂を握りつぶした。

 サラサラとその場に流れる砂。
目の前の人物を確認し一度息を吐いた。
「随分と早かったな」
「んー、まあね。許可が下りるのが随分早かったからね」

 大名の首根っこを掴んでいたのは、木の葉の忍である、はたけカカシ。
「サクラ!」
 我愛羅の隣で肩膝を付き、サクラに声をかけたのは山中いの。
「チャクラ切れだ。外傷はない」
「ありがとう。後は私に任せて」
 サクラを抱えていた我愛羅はいのにサクラを任せ、立ち上がりカカシが捕まえている大名に視線を向けた。
「くそ! なんでワシがこんな目に…! 知っておるのかワシは水の国の大名だぞ、こんな事をしおってただで済むと…!」
「ええ、知っていますよ。大名ならばね」
 カカシの言葉に大名の男は醜い顔を更に歪める。
「アンタは大名の地位剥奪された。罪状は此処にある。各国の大名達も重い腰を上げたのさ」
 紙切れ一枚を見せたのは、奈良シカマル。

 大名の顔がみるみる青ざめるていく。
 愕然とその場に座り込み膝を付いた。

 はぁと小さく溜息を吐き、治療をされているサクラを見た。
 気を失っているサクラの頬を一度だけ撫でる。

 生きている事に安堵した。
 漆黒の黒ではなく、あの鮮やかな柔らかい色を早く見たいと我愛羅は切に願った。