長く共に居ると相手のことを全て理解した「つもり」になってしまう。
 言葉で伝えぬともお互い相手が自分の事を理解していると思ってしまうのだ。

 



 エゴイストシンドローム




 ふわふわと心地良くまどろむ感覚からぼんやりと意識を浮上させたのサクラはゆっくりと瞬きをする。
 お腹の上にある重みを視線に入れた。

 重い……

 サクラは心の中で呟いて欠伸を噛み殺す。
 お腹の上に乗っていたのは腕。
 うつ伏せになり、サクラを抱きかかるように寝ていたのは砂隠れの長、我愛羅。
 サクラが体を動かし我愛羅を見るように横向きになれば、我愛羅の腕に力が込められた。

 隣を見ても我愛羅は寝ているようで無意識の内にサクラを逃さないように力を込めたのだろう。
 目を細め少し微笑んだサクラはそっと、我愛羅を起こさぬように左手で我愛羅の隈を親指で撫でた。
 もう数年前に体内から守鶴は出て行ったというのにいつまで経っても取れぬ隈にサクラは実はこれ描いてんじゃないかと疑いを持ったが
どんなに拭いたり擦ったりしても取れなかったのを思い出しクスリと笑う。

 ああ、あの時は悪い事をしたな。と思いゆるゆると我愛羅の隈を親指で撫でているとサクラの腰を抱き抱えていた我愛羅の腕がサワサワと動いていた。
「ちょ、我愛羅君! 起きてるんでしょ!」
 腰を撫で尾てい骨からお尻をやわやわと触られ、太股に降りていく我愛羅の手の動きにサクラは声を上げた。

「誘ってくるお前が悪い」
 ぱちりと目を開けた我愛羅がサクラを抱きしめ肩口に鼻を埋め、すんすんとサクラの匂いを嗅ぐ。
 そんな我愛羅にギャッと色気のない声を上げ「誘ってない!」と叫び我愛羅の腕の中から逃げようとしたが
ぎゅうぎゅうと両腕で抱きしめられてしまえばサクラは動けなかった。

「……しないわよ」
「……っち」
 少し冷たく言い放ったサクラの声色に我愛羅は思わず舌打ちをする。
「もう散々したじゃない、それに眠いもの」
「お前は俺を起こしたのに寝るのか」
「我愛羅君が勝手に起きたのよ」
 ああ言えばこう言う。
 そのやり取りと楽しむかのようにサクラも我愛羅の背に腕を回し笑った。

「もう寝ろ」
「うんー」
 頭を撫でる我愛羅の言葉に既に夢見心地だったサクラは我愛羅の胸に顔を埋め我愛羅の匂いを肺に入れながら意識を手放してく。

 ああ、こんなに甘い日々がずっと続けばいいな。
 サクラは心底幸せだと思い誘われるままに意識を捨てた。


 サクラが寝息をすぅすぅと立てるのを聞いて思わず口元を緩めた我愛羅も少し大きな欠伸をする。
 心地良い。

 人が隣に居て寝る事など今までは考えられなかったが、今となってはサクラが腕の中に居ないと寝付けないほど。
 サクラの柔い肌や、甘い香り。
 それは我愛羅の中の雄を刺激するが、幸せそうに寝てしまったサクラを見ればぐっと我慢をして堪えた。
 もし、今襲ってしまえば明日が恐ろしい事この上ない。

 はぁ、と小さく溜息を吐いた我愛羅もゆっくりと瞼を閉じれば思いのほか、すぐ意識を手放していた。


 月が昇り夜が更に深ける頃、穏やかな風に揺られ砂は舞う。
 里全体が静かに眠りについていた。