きらきらと輝く星達が闇夜を照らす。
星の輝きに照らされて、月は静かに存在する。



「じゃぁ、お先に失礼するわね」
「お疲れ様です。気をつけて帰ってください」

 真夜中の病院での会話。
私服に着替えて木の葉隠の里、木の葉病院から仕事を終え少し疲れた顔で出てきたのは
五代目火影の弟子であり、木の葉の医療忍者、春野サクラ。

 肌を刺すような寒さは薄れ、ほんの少し温かくなってくる時期。
冬物のコートはいらなくなったとは言え、春の訪れの前の静けさにぶるりと背中を震わせる。


「何かあったら連絡お願い」
「大丈夫です! 任せて下さい!」
 胸をドン! っと叩いて見せたのは医療忍者見習いのモエギ。
サクラはモエギを見ながら随分と成長したな。と思い頬を緩ませた。

「じゃぁ、よろしく頼むわね」
「はい! お気をつけて!」
 モエギに見送られサクラは一度手を上げ家路へと着く。


 空を見上げれば広がるのは暗い闇。
先ほどまで輝いていた星達は流れる雲によってすっかりと姿を消してしまっていた。
雲の隙間から闇を照らすように薄っすらとやわらかい月の光が注がれる。

 ぼんやりと空を眺め雲が過ぎていくのを見送れば穏やかに存在する月が姿を現した。

 綺麗だ。

 まるで魅了されるようにサクラが目を細めれば、チクリと感じた胸の痛み。
それは一瞬で消え、サクラは気のせいかと思い立ち止まっていた足を一歩、踏み出した。


 闇夜に浮かぶ薄紅色の髪が夜風に靡いていた。





陽炎に沈む花





 バアン!!!

 火影の部屋で響いた音。
頑丈な机が大破し、大量に積み重ねられていた書類は宙を舞う。

 その惨状にその場に居合わせた者達はひいいと声を震わせた。

「何の音ですか……あらら」
 ガチャリと扉を開けたのは、はたけカカシ。
室内の現状にガシガシと後頭部をガシガシと掻いた。

「一体どうしたんですか。火影様」
 火影様。
そう呼ばれたのは五代目火影である綱手。

 睨み付けるようにカカシに視線を向ける綱手に、周りに居た中忍、上忍はビクリと肩が動いた。

「遅いぞ! カカシ」
「すみません」
 素直に謝罪をするカカシにふーと大きく息を吐き、側近であるシズネに視線を配らせる。
コクリと頷いたシズネは室内に居る者達を確認した。

「皆さん緊急で集まってもらい、ありがとうございます。
先程、各隠れ里より密書が届きました。第四次忍界対戦後、各隠れ里人員不足の改善、復興に 尽力する中、新たな火種が発覚しつつあります」

 シズネの言葉を静かに聴いていたシカマルは眉を吊り上げどう言う事かと問うた。

「一体なんすか。新たな火種って」
 綱手があそこまで怒るほどだ。よっぽどのことに違いないと確信する。

「医療に携わる者達が連れ去られ、殺害されているとの報告があがっています」

 その言葉に凍りつく室内。

「雲、霧、砂、岩それぞれで事件が起きていますが、犯人は特定も出来ておらず、医療に関わる者が減少しています」
 シズネの説明に、ドカリと椅子に座り大きな息を吐いた綱手。

「医者を何だと思っている」

 ギリギリと奥歯を噛む綱手にネジが問う。
「木の葉では報告が上がっていませんが……」
「ああ、確認している所だ。あらぬ疑いが掛けられているのもまた事実。 早急にこの件を解決しなければならぬ」

 綱手の言葉にその場に居た、シカマル、チョウジ、元ガイ班、十班の忍はコクリと頷いた。


「どうされますか。何にしても情報が足りません。各隠れ里からの情報が欲しいところですが……」
 カカシの言葉に「それなら」とシズネが巻物を広げようと手にした瞬間、

 コンコン

 聞こえたのは火影室を叩く音。

「なんだ、入れ」
 ガチャリと扉が開き現れた人物は目を丸くして室内を見渡した。

「失礼します。あれ、皆どうしたの?」
 手にバインダーを持ったのは山中いの。忍び装束ではなく病院勤務なのか、白衣を着ていた。

「いのじゃねーか」
「どうしたの?」

 キバとチョウジの問いかけにえっと、と言葉を零したいのはシズネと綱手に視線を向ける。

「どうした。緊急か」
 椅子に座っていた綱手はくるりと椅子を回し、いのを視界に捕らえた。
綱手の視線に促されるようにいのは此処に来た理由を思い出し、コクリと頷き綱手に問う。


「あ、すみませんお聞きしたいことがありまして……。今日、サクラって任務に出たりしてますか?」

 
 落とされたいのの言葉に綱手は目を見開いた。
ザワザワと嫌な胸騒ぎが室内を包むのを感じ取りながらもいのは言葉を続けた。

「今日、病院勤務になっているんですけど来てなくて。もしかすると別件でなにか任務が入っていたり……」
「それは本当か!」

 いのの言葉を遮って綱手はがたりと椅子から立ち上がる。
眉を吊り上げギリギリと奥歯を噛む綱手にビクリといのの肩が震えた。

「は、はい! 午前から病院勤務なんですがモエギにも確認したところ今日は姿を現してないそうで、家に行っても不在で……」
「シズネ、今すぐ暗部に知らせろ!」
「はい!」
 綱手の指示を受けシズネはバタバタと足音を立て、火影室を急ぎ出て行く。

「サクラさん……大丈夫かな」
 心配そうに呟いたのはヒナタ。

「……そう簡単にやられる奴じゃねえだろ」
「そうだ、ヒナタ。サクラは強い。何故なら五代目火影様の弟子でもある」
 ヒナタの呟きに同じ班員であるキバとシノは言葉を掛ける。

「どういうこと……サクラがどうしたっていうのよ」
 不安な瞳の色を見せたいのは、シカマルに説明を求めるように視線を向ける。
「めんどくせー事になりそうだ」
 後頭部を掻きながらシカマルは顔を顰めた。

「火影様、どうなさいますか」
「カカシ、忍犬を使いサクラを探せ。情報が入り次第、シカマルを小隊長としネジとリーで任務に当たれ!」
「ハイ!」

 綱手の指示に従い動き出す忍達。
 皆が立ち去った室内を一瞥し、溜息を一つ。

 里が一望出来るほどの窓から空を見れば、憎いほどに青く澄み切った空が広がっていた。