ピーヒョロロ
 
 真っ青な大空を群れを成して飛んでいく渡り鳥。
砂漠の暑さに負けず、空を飛ぶ姿は輝いていた。




 背中にじわりと汗を掻く感覚に気がついたカンクロウは、ハッと、意識を浮上させ商人を装っていた男に目を向ける。
男は荷物を投げ捨て、移動用のラクダに乗り逃走しようとしていた。

「そいつを逃がすな! 捕まえろ!!」
 カンクロウの声に、動いた警護の忍。
木箱からサクラを助け出すと、意識は無くぐったりとしていた。

「おい、しっかりしろ!」
 サクラの頬を軽く叩くが返事もなく、異様に熱かった。
ダラリと力なくサクラの腕が投げ出され、呼吸が浅い事にカンクロウは眉間に皺を寄せ、サクラを抱き上げた。

「しっかりしろ! 医療忍者が病院に運ばれるなんて世話無いじゃん」
 呟いた言葉に返事は無かった。





  ***



 ピッピッと響く電子音。
木の葉の設備と、技術を導入して早数年。
病院、即ち医療技術に関して、決して高いと言う訳ではなかった技術レベルが向上したのは、
現在、砂隠れの里の病院で人工呼吸器と点滴を付けられているサクラ達木の葉の医療忍者が尽力したからだった。

「サクラさん……」
 いつも明るく朗らかに笑い、少し勝気だが、砂隠れの医療忍者に講義をするサクラが
目の前で衰弱しきっている事にマツリは顔を歪ませ、サクラを見つめていた。
 マツリに医療のいろはを教えたのはサクラだ。
他里の忍の為に寝る間も惜しんで優しくも、厳しく教えてくれたサクラはマツリにとって憧れだった。



「カンクロウ、サクラはどうなった!」
 サクラがいる治療室の外で待っていたカンクロウの元に姿を現したのは
姉であるテマリと風影であり弟である我愛羅だった。

「今、中でマツリ達医療班が見てる。衰弱しきってるじゃん。
忍装束でもねぇから木の葉で連れ去られてそのまま連れてこられた可能性が高いじゃん」

 一瞬の沈黙。

「あ、我愛羅様」
 治療室の扉が開き、出てきたマツリは風影である我愛羅の姿を見つけ名を呼ぶ。

「マツリ、サクラはどうなった」
「はい。かなり体力を消耗していまして脱水症状が見られます。発見が後少しでも遅ければかなり危険な状況でした。後、一つ気になる事が……」
「なんだ」
 我愛羅に促され、カルテを見てマツリは答える。

「胸元に、呪印のような物が刻まれていまして……」
「呪印、だと」
 開け放たれた治療室を我愛羅は見た。
 ここ数年、随分と見慣れた薄紅色をした髪色。
決して砂漠で花を咲かせることのない花の名前をした女が横たわっているのが見えた。

「テマリ」
「ああ、わかってる」
 流石に我愛羅が見るのもどうかと思い、同姓であるテマリにサクラの呪印を確認するように名を呼ぶ。

「すまないね。サクラ」
 
 人工呼吸器を付けられ、苦しそうに浅く呼吸をするサクラの顔を一度撫で、
上着のチャックを開けると、胸の谷間から鎖骨辺りに広がる呪印。
黒く禍々しく存在を主張するかのような呪印に、テマリは思わず口元を押さえた。


「これは……!」
 数日前、砂隠れの里の外れで見つかった医療忍者に刻まれた同じ呪印の模様。

「テマリ、どうした」
「同じ呪印だ。死んだ医療忍者と」
 カンクロウの問いに、振り向きながら答えるテマリ。

 一連の事件に巻き込まれた可能性が高いと我愛羅の頭を過ぎった瞬間、突如として意識を失っているサクラが苦しみだした。

「う、……あ、あああ!!」
 胸元を押さえたサクラ。
禍々しい呪印が黒く、蠢いている様に見えた。
 
「サクラ!」
 テマリがサクラの体に触れる。
サクラの体は以上に熱く、熱を発していた。

「サクラさん! 脈拍、心拍数共に上昇してます、鎮静剤を投入してください!」
「はい!」
 鎮静剤を投入しようと数人の医療忍者とマツリがサクラに近づいた瞬間、
 
 ガタン!!

 突如として、サクラの腕がマツリに伸びた。

「チィ!」
 マツリの体にチャクラ糸を素早く付け引き寄せたのはカンクロウ。
「カンクロウ様!」

「なんだ、一体」
 ゆらりと起き上がるサクラを見てカンクロウがぽつりと呟く。
服は胸元まで開いたまま。
 
 呪印が蠢くように黒く輝き、鎖骨から首筋までに広がっていた。


「サク、ラ」
 危険を察知し、咄嗟にサクラから離れたテマリ。
眉間に皺を寄せサクラの名を呼ぶと、光を宿していない瞳がテマリを捕らえた。

 ガシャンと音を立て床に落ちた人工呼吸器。
 
 少しだけ目を細めたサクラが一歩動き、床から足を離す。
 テマリが背中に背負っている鉄扇に手が触れるよりも、サクラがテマリの目の前に移動するよりも早く、
大量の砂がサクラとテマリの間に割って入る。


 サラサラと室内に広がる砂の粒子が少しだけ、熱を帯びていた。