手荒な真似はあまりしたくない。
どう見ても、呪印によって操られている様子の目の前の女。

 同盟国である木の葉の忍であり、現火影の愛弟子。
砂の里の医療技術向上の為よく尽くしてくれる。
 頭の切れる女だが、人間らしく感情豊かでよく笑い、よく泣く。
数年前の戦争で命を落とした砂の相談役、チヨバア様の命日には必ず墓参りに来る義理堅い人間。

 友であり、仲間だと思える人物。
感情表現が苦手な我愛羅にとって春野サクラとは、不思議な存在でしかなかった。


 目の前に現れた突然の砂にサクラはサッと後退する。
狭い病室内。
ベットの上に乗り、無表情で我愛羅を見るサクラ。
我愛羅が少しだけ眉間に皺を寄せれば砂が動く。

 ザザザザザ

 音を立てるのは砂。
出入り口には我愛羅やカンクロウが立ち、病室内には医療忍者が2名。
その状況で逃げられるはずも無い。

 サクラがチラリと視線を動かすのと同時に、我愛羅が砂でサクラを捕まえた。

「逃がさん」
「ぐっ……」
 ザザザっと素早い動きで砂を動かし、サクラを壁に縫い付ければ背中に走る衝撃にサクラは呻き声を上げた。

「我愛羅!」
 どこかで見たような光景だと思ったテマリは一瞬にして記憶が甦る。
中忍試験でサクラが我愛羅に立ち向かった光景だった。

 あの後、秘かにサクラに謝罪をしたいと思い、なかなか謝罪の言葉が出てこず
難しい表情をしてる我愛羅の事をテマリは知っている。

 テマリは弟の中にまた一つ、サクラとの間にしこりが出来るのが嫌だった。
立場もそうだが、我愛羅の過去を知り元人柱力である事も気兼ねせずに接する存在が貴重だったから。


「う……ああ、あああ!!」
 サクラの叫び声が室内に響く。
胸元から伸びる呪印が赤黒く光っている。

 サクラを床に引き摺り下ろし腕を背中に回し、砂で拘束する。
痛みに耐えるように小さく丸くなるサクラに我愛羅は眉間に皺を寄せた。

「テマリ、至急火影に文を飛ばせ。カンクロウは拘束した男から呪印を消す方法を聞きだせ」
 サクラを見ている我愛羅の瞳がゆらりと動いたのをテマリとカンクロウは見逃さなかった。

「わかったじゃん」
 廊下に居た暗部にカンクロは声をかけ足早に病室を後にする。

我愛羅とサクラが少し心配にもなったが、あの場に留まっていても自分がする事は何もない。
 そう考え、かつて命を救ってくれたサクラに少しでも恩を返せたらいいと思いカンクロウは駆け出した。


「我愛羅……。マツリ、サクラを頼んだよ」
「あ、はい!」
 床で苦しむサクラを一瞥し、サクラに医療のいろはを教え込まれているマツリに声を掛け、連絡班が待機している待機室へと急いだ。

「はぁ、はぁ……」
 肩で呼吸をし出すサクラ。
未だ肌蹴た胸元から見える、呪印がサクラを苦しめている。

 拘束している腕を更にきつく絞める。
虚ろな瞳で腕にチャクラを込めるサクラに我愛羅は更に眉間の皺を深くした。

 あの怪力。本気で叩き込まれれば即死してしまうであろう。
中忍試験で試合をしたロック・リー程の素早さや体術が備わっていなく安堵した。

 もし、医療忍術に体術が備わっていたら……
なんと恐ろしい事か。我愛羅は払拭するようにマツリに言葉を掛ける。

「サクラを眠らせろ。このままだとまた暴れかねん」
「は、はい」

 マツリはその場に居合わせた医療忍者から注射器を受け取り、少し強力な睡眠剤を入れる。
恐る恐るサクラに近づき「すみません」と一言謝罪をし、サクラの二の腕に針をゆっくり刺した。

 睡眠薬が効いてきたのか少しずつ呼吸を整え瞼を動かすサクラ。
サクラの前に片膝を付け座る我愛羅は、サクラのさらりと流れる前髪を掻き分け優しく右頬に触れた。
一度「サクラ」と名前を呼ぼうと口を少しだけ開いたがその言葉は飲み込んだ。






 はぁはぁと肩で呼吸をするサクラは混濁する意識の中、
霞む視界に心配そうな表情をするマツリと眉間に皺を寄せる我愛羅が映り、

(ごめん)

 と心の中で謝った。

 ああ、師匠にどやされてしまう。
そう思ったのも束の間、サクラの意識は闇の中へと呑み込まれていった。