真っ暗な空に輝くのは満点の星。
風も吹き荒れず、砂嵐一つ無い穏やかに広がる砂漠。
執務室から見える空はただ、綺麗だった。



「我愛羅!」
 夜も静まり、里が眠る時間。
風影の部屋を名を呼びながら、ノック一つせずに無遠慮に開け放たれた。
砂の里で風影に対し、そんな行動をするのは血の繋がった姉兄のみである。

「なんだ」
 窓の外を見ていた我愛羅は振り返りもせず、返事をする。

「情報部からだ。木の葉より返書が来た」
 巻物を机の上に広げたのはテマリ、積み上げられた書類を少し我愛羅は移動させた。


「火影様より通達だ。サクラの身柄を砂で一時保護、そして現在木の葉でもこの件の情報収集を行っているらしい。
分かった情報があれば提供して欲しいという事だ。
後、砂の近くで任務に当たっているガイ、サスケ、木の葉丸、サイを任務が終わり次第砂に向かわせると言う事だ」
 返書を見ながら伝えるテマリ。
我愛羅は腕を組み、右手で顎を押さえテマリの話を聞いていた。

「そうか……カンクロウの方はどうだ。何か情報が引き出せればいいんだが」
「ああ、今暗部達と情報を引き出しているが、知らない。分からないの一点張りだ。
……木の葉の、山中いのいち殿程の情報収集に長けた忍が居ないからな。
時間が掛かりそうだよ。カンクロウも苦戦している。捕まえて暗部に引き渡した途端に気が狂ったようにおかしくなってしまったようだ」

「あの男が何の目的で医療に関わる者達を殺していったのか。
そして春野サクラを連れて行こうとしたのが何なのか……これで事件が解決すれば問題ないのだがな」
 小さく溜息を吐き、木の葉からの返書を巻きながら言葉を紡ぐ我愛羅。
我愛羅の顔をじっと見て、少しだけ思考を巡らせテマリは問う。

「我愛羅、サクラの胸の呪印を覚えているか」
「呪印か」
 テマリの言葉に、我愛羅はサクラの胸に色濃く出ていた呪印を思い出す。
肌蹴た胸元を見るのも気が引けたので我愛羅は、はっきりとは見ていなかった。

「さっきサクラの様子を見に行ったんだが……マツリも言ってたがあれは呪印だけど、
どこかの家紋にも見えたんだ。術が発動していない時は胸元に家紋だけ浮き出ている。
術が発動しているときはその家紋のような印から体全体を覆うように、黒い模様が広がっているようだ」
 懐から取り出した一枚の紙をテマリは我愛羅渡しその内容に目を通す。


「里の外れで死んでいた医療忍者のくの一だ。体全体にその模様が広がっている」
「見たことのない呪印だ。……テマリ」
 ポツリと呟き、書類を見たまま我愛羅は言う。

「この事を木の葉に伝えるぞ。もし、これが本当に家紋ならば調べるしかない」
 書類をテマリに返し我愛羅は木の葉の火影に報せを書く為、椅子に座る。

「調べる? 当てもないのにか? 何処の里のものかも不明というのに……第一、忍や大名連中ならまだしも、
一般家庭のものかもしれないし、里外や放牧民のものというのもありえるぞ」
 テマリの疑問にコクリと頷いた。

「ああ、それでもだ。事件が大きくなりつつある中、あの男だけが犯人とも思えん。
それに、木の葉は砂より情報網が広い。得られる情報もあるだろう」
 我愛羅の言葉には反論は言わせんという思いが込められ、力強く感じていた。

「……それに」
「それに?」
 くるりと椅子を回転させ、窓の外を眺める。

「なにか、嫌な予感がする」
 満天の星の中、一際存在感を出しているのは怖いぐらい綺麗な満月。

 ザワザワと体の血液が騒ぎ出す感覚に我愛羅は眉間に皺を寄せる。


 言葉も音もない満月が、ただ、輝いていた。